
津軽富士とも呼ばれるだけあって、さすが優美な裾野をぜいたくに360度広げていて、津軽人にとっては自慢の山にちがいない。どんなに偏屈な山スキーヤーも、この山の新雪を纏った姿にはイチコロだ。山頂部からの放物線は、様々な妄想で目眩しそう。でも旅の途中で予定は本日1日だけ。そしてその本日今日が、どうやら1週間以上ぶり(途中で出会った地元の山スキーヤーの話では1ヶ月ぶり?)の大快晴!ドピーカン!!である。岩木山スカイラインが開通する春スキーの頃ならいざ知らず、土地勘のほとんどない初めてのこの山をどう攻めたらいいか、朝日に輝く岩木山のオーラに少々うろたえ気味。

今年は特に豪雪というのもあるだろうけど、道路はどこも雪の壁で、まず車を駐車する場所を見つけるのが大変。百沢スキー場から山頂に向かって左の尾根を登るというのも考えたけど、スキー場のそばというのはつまらないので嶽温泉に移動。嶽温泉の通りの古い街並みは雪に埋まっているような状態で、とても勝手に車を停める雰囲気でなく岩木津軽スカイライン方面へ。スカイライン入り口の道路が、駐車スペースの出来るほど広げて除雪してあってここしかないと判断。はやる気持ちを抑えて即出発。時刻はすでに午前9時30分をまわっていた。スカイラインの除雪はほんのはじめだけ、すぐに分厚い雪の上をシール登行。標高が低いのでさすがに新雪といっても重めの踝ラッセル。ブナ林だったり針葉樹の植林帯だったりするけど、小さな藪はしっかり埋まっているので帰りの滑りで煩わしさはなさそう。意気揚々と岩木山を独り占め気分で歩いていると、やがて嶽温泉コースに合流。そこにはなんと先行者のトレースがあって、天下の岩木山を独り占めというのは、甘ちゃんだった。

この嶽温泉コースの切り開きは快適ではあるけど、スキー場のコースのようでちょっと風情に欠けるかも。昨日のだろうか、スノーボードのシュプールの跡がわずかに残っている。今日の先行者といい、結構登って滑る人がいるのかもしれない。1100m付近で先行者の一人が下山の準備をしていた。もっと上まで行った方が面白いのにもったいないと思ったけれど、午後用事があるのでここまでらしい。朝天気が良かったので思わず仕事を休んで登ってきたらしく、なるほど今日のドピーカンはよほどの一大事だったのだ!もう一人の単独スキーヤーの後ろ姿もやがて確認。脳天気に9時半頃からふらふら歩き出し、ちゃっかり先行者のトレースにずいぶん楽をさせてもらって、今度は申し訳ない気分。

スカイライン終点の標高は1238m。駐車場らしき場所は雪原になっていて、さてここからまたどう攻めるか思案するためにスキーでうろちょろ。急峻な山頂部はハイマツだろうか、とてもスキーが使えるような斜面でないので、リフト中間のギリギリまでシール登行することにした。そこで先行者の方に追いつく。なんと地元弘前のテレマーカーで、岩木山の情報をいろいろ教えていただいた。

ここからの展望も素晴らしく、白神山地や七里長浜らしき津軽半島の西海岸も眼下に眺められる。2006年の夏、津軽半島をカヤックで漕いだとき小泊半島付近の海から遠くこの岩木山を眺めた凪の朝が想い出される。時刻はちょうどお昼で、先行者のKさんはここでスキーをアイゼンに履き替えてさらに上に登って行かれた。私はアイゼンどころかスキーアイゼンさえも用意してなくて、今日はてっぺんより滑り重視。山頂からの大展望にちょびっと後ろ髪を引かれながらも、純白無垢の大斜面に飛び込む。大きな回転弧を気ままに描いた至福の1本でした。

途中で一度登り返して別の美味しい沢筋をもう1本滑って、もときたところを滑って下山。切り開きコースは登りでは気にしなかったけど、風で斜面がフラットでなくけっこう凸凹。樹林帯といえども日本海に面した独立峰、やはり天気が荒れた時の風雪はハンパじゃないのかも・・・

午後2時、下山。嶽温泉でひとっ風呂もいいのだけれど、天気が持つのは明日まで。白神岳もぜひとも明日滑りたいのでこらえて車移動。

今回はほんの偵察。厳冬期は天気に恵まれることが何より。情報をそれなりに得ることも出来、これからのプランがいろいろ浮かんでくる。スカイラインが開通する前の岩木山が勝負である。
