白神岳3題 1994夏,1996春,2012冬

夏の白神。ブナの深い森。

  1994年8月4~5日

 白神岳は、ブナの原生林が現在も広大に残されているということで、世界遺産に登録された白神山地の主峰である。地球規模の環境問題がクローズアップされるようになって、にわかに世間に知れ渡るようになったが、それまでは地元の人かよっぽどの山好きにしか登られていなかった。

 1994年の夏、私たち夫婦も初めて白神岳に登り、頂上にある避難小屋に1泊したのだが、その夜は大変思い出深いものになった。私が白神山地に興味をもつようになったのは、実は登山家の根深誠氏の白神に関するたくさんの著作を通してなのであるが、その張本人と幸運にも白神岳の頂上で出逢えたからである。といっても別に親しくお話をさせていただいたわけではなく、その時根深氏はNHKのスペシャル番組に、白神岳の山頂から生中継で出演するためたくさんのスタッフと来ていて、私たち夫婦が偶然その場に居合わせたということなのだ。

 だけれど気さくな根深氏は山頂にいる誰彼かまわず話をされていて、私たちもいろんなおもしろい話に耳を傾けることができた。そして、根深氏とともに珍しいブロッケン現象や夕日に染まる雲海、朝の岩木山や八甲田山の眺めなど、山頂からのパノラマにも感動した。そんなことがあって、今度は残雪の白神岳に登ってみたいと思っていた。

ブロッケン現象。

  1996年4月29日

 あれから2年足らずの月日しかたっていないのに、さらに有名になった白神岳には、たくさんの登山者や観光客が押し寄せるようになっていた。今や白神は自然保護のための入山禁止問題で揺れている。ハイシーズンには1日300人が白神岳に登り、あの爽やかな頂上直下の湧水は登山者のし尿で大腸菌に汚染されてしまったとニュースで報じられていた。正直言って私たち自身も来ることがためらわれたが、もう一度あのブナ林に会いたくてついにまたやって来ることになったのだ。

雲海に沈む夕日。雲海の下は日本海だ。

 10時ちょうどに登山口を出発。避難小屋で1泊するための荷を詰めた重いザックにスキーをくくりつけ、のんびり夏道を歩いていく。可憐なかたくりの花の群生地があったり、冬眠から覚めたばかりのマムシに道を阻まれたりしながら、2時間ほどで残雪がたっぷりの斜面についた。このあたりから周りの林はブナばかりになる。堅雪なので今度はスキーをロープで引っ張ることにして、稜線までつぼ足で1時間。稜線で弁当を食べ、、そこからやっとスキーを履いて歩く。といってもシールは貼らない。今回はうろこの軽いスキー板なので、稜線の緩やかな勾配は極めて調子よく登っていくことができる。後続の仲間2人を大きく引き離す。見事なブナの原生林もやがて森林限界となりハイマツ帯に変わる。急な山頂直下はまたつぼ足で登り、午後三時頃山頂に着いた。仲間がやって来るまで、笹内川源頭のすばらしいスロープを滑ったり、山頂にマットをひいて寝っ転がりながらビールを飲んだ。

 笹内川源頭

 半分以上雪に埋もれた小屋は私たち三人だけだった。朝方、海沿いの国道で見つけてとってきたタラッペを天ぷらにして、酒のつまみにしたのがおいしかった。夕食を食べて腹一杯になると、さすがに疲れであっという間に睡魔に襲われ意識を失ってしまった。 

 翌朝、崩れるはずの天気は崩れなかった。向白神岳に続く稜線や岩木山が雲海に浮かぶ。思い切りのんびりした後、仲間とスキーハイキングに出かけた。山頂付近を歩き回り、追良瀬川源流のこれまたすばらしいスロープをどこまでも滑り降りた。どこもかしこもブナの木ばかりである。ブナの木というのは、眺めていても飽きない。厳冬期の白神の気象は本当に厳しいに違いなく、ブナの木は激しい風雪に相当痛めつけられているようだ。しかし、どの木もじっと耐えながら時には跳ね返し、幹や枝はくねくねと曲がり、精一杯伸ばし広げ、たくましく立っている。一本のブナの木に抱きついてみた。太い幹は、でこぼこのくせにすべすべしていて温かい。根元から見上げると、素直に空に向かって伸びている枝はない。それらは、紺碧の空に向かって抽象画家の筆使いのようだ。私たちはしばらく静かなブナの森の中でぼんやりと過ごしたが、あまりの幸せな気分にそこを立ち去りがたい気持ちになった。

           追良瀬川源流のブナの木たち。

 昼過ぎ、山頂を辞して下山した。今日はたくさんの登山者が登ってきた。今夜の山小屋は相当にぎやかになるに違いない。暖気で雪が緩み、帰りの滑降は腐れ雪との格闘になってしまったが、さすがに登りの時の半分の時間で登山口に着くことができた。
 山登りをして、美しい森に出会えることは最高の喜びの一つである。野反の山々にも、奥に入ればブナやミズナラ、樺などの落葉広葉樹やシラビソ、コメツガなどの針葉樹が残されている。野反の山々の原生林も白神に負けないくらいすばらしいと思う。

 追良瀬川源流を滑降する。

3 2012年2月14日

 昨日の岩木山に続いて今日は白神岳へ。海岸沿いの国道101号線から登山口のある林道に入ってすぐ道路わきに駐車。標高100m足らずからスキーで歩きだす。登山口の標高は240mなので、標高1232mの白神岳まで標高差1000mである。

1996年4月以来だから16年ぶりの白神岳なので、登山ルートもなんとなくこうだっけと思い出しながら歩く。だた違うのは、GPSでルーファイできることだ。前回はGPSがまだ世に出ていなかったので、完全に地図と磁石を頼りにルートファインディングしなければならなかった。特に下山時に道迷いせず安心して滑ることが出来るかどうかの差は大きい。

マテ山841mの尾根まで上がると、樹氷が見事なブナ林を夢心地で進む。大峰分岐手前からは、右手に白神岳が眺められた。

振り向くと日本海が絶景で眺められた。

家内が少し遅れて登ってきている。はやる心が抑えられず山頂がすぐそこに見えてくるとそのままお先に山頂到着。

ところで後でわかったのだが、思い出のある避難小屋が新しくなったのだと思い込んでいた山頂の立派な建物は、トイレの建物だった。これもまさにスノーモンスターと化していた。もちろんトイレは使用不可だった。

曇り空でしたが、風も弱く視界もスッキリして良好。馬蹄形の稜線の向こうに、向白神岳が確認できた。

家内も山頂に到着。笹内川源頭部斜面にちょこっと滑り込む。

どこまでも滑って行きたいところだが、ほどほどにして登り返す。

下山ルートは白神岳山頂からトラバース気味に大峰分岐下へ滑ってからマテ山尾根上へ。

日暮れ前に無事下山。厳冬期の白神岳に日帰りでパウダーが楽しめたのはラッキーだった。


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