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愛媛県の宇和海に面した西海岸は、真珠やハマチの養殖が盛んだ。複雑に入り組んだ海岸線と外洋の黒潮が、一年中優しく暖かな海の恵みを与えてくれるのだ。

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いけすの中のハマチたちが、元気いっぱいに波しぶきをあげながら科学飼料を食べている。水面すれすれのカヤックから間近に見ると、かなりの迫力がある。漁師たちは、餌をやる仕事のほとんどを機械がやってくれるので、今日のような天気のいい日はのんびり気分のようだ。

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夕方の漁港で地元の中学生が二人、魚釣りをしていた。「釣れる?」と聞くと、網の中から見事な獲物を見せてくれた。50センチはあろうかというスズキが5匹も入っていた。坊主頭の中学生は、私に釣り方を親切に教えてくれた。その成果がこれだ!その夜、私の貴重な蛋白源になったのは言うまでもないことだろう。

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朝日に輝く海が好きだ。こうしてカヤックで沖に出ると、さらに格別の気分になる。今日は遠くへ旅してみたくなった。初めての海は不安がいっぱいだけど、新しい出会いや発見を求めてどうしても出発したくなるのだ。

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湾の中は真珠の養殖場でいっぱいだ。でも軽くて小さなカヤックは、どこでも自由に動き回れる。そんな湾ともお別れだ。いよいよ穏やかな湾から、厳しい自然にさらされている外海へ出て行かなければならない。緊張する瞬間だが、これがシーカヤックという遊びの魅力でもある。

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外海に出てみると、昨日は西風が強くてとても外海には出られなかったが、今日は穏やかだ。しかし、いくら穏やかだといっても、大海原に出れば5メートル足らずのカヤックなんて、なんとちっぽけな存在か。私は気を引き締め、細長い半島の岬を目指して北進した。

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老漁師に声をかけたら、愛想よく話をしてくれた。手釣りでイサキを釣っていた。釣れたところを写真に撮りたいといったら何回もポーズをとってくれた。老漁師はもう隠居していて、この趣味のような釣りで年金のほかに 500万稼ぐと豪語した。愛媛の海は、豊かなんだと実感した。

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細長い半島のほぼ真中に、船越という地名がある。どうやらここには運河があるらしい。私は急遽予定を変更して、この運河を通って半島の反対側へ近道しようと考えた。ちょうど潮が満ちてきているらしく、小さな運河は川のように流れていた。なんだか川下りのような気分だった。

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運河を越えて、竹が島という小さな島を目指した。地図を見ると小学校のマークがあったが、今はもう廃校のようだった。こんな小さな島にも、真珠の養殖を主な生業にして人々は生活している。愛媛の海には、山にすんでいる私には想像もできない人々の生活がある。

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いよいよ旅を終わらせるときがきた。もっと旅を続けたかったが、明日から職場に戻らなければならない。愛媛の海が私の心を穏やかで豊かな気分に癒してくれたが、明日になれば夢から覚めたように、またいつもの毎日に戻るんだろう。

1996年10月20日~21日
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