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左京横手偵察2024

毎年必ず一度は野反湖から秋山郷へ抜ける山旅を楽しんできたのですが、コースの一部が立ち入り禁止になってもう3年も過ぎてしまいました。すっかり登山道の整備が入らなくなったので、どんなふうに荒れているのかわかりませんが、藪のひどさに困り果てて引き返してきた登山者もいます。 今回は無理せず左京横手の入り口くらいまで笹の伸び具合などを偵察するために歩いてみました。北沢までは6月のある雨上がりの日にサンカヨウの花を見に歩いています。その時よりもだいぶ笹が伸びた印象を受けました。 北沢から左京横手へと続く九十九折れの道からは3年ぶりです。ブナも混じる美しい森の面影を想い出しながら歩き始めましたが、少し歩くと深い笹薮が始まりました。 樹林の中の日が当たらないところになると登山道がはっきりわかって安心できますが、日当たりのいい南斜面は初めて歩く人は様子がわからないくらいの藪です。だいたい把握できたので、荒砥沢まで歩いて引き返しました。もう何十回と歩いた道だから、切明温泉まで個人的に迷うということはないでしょうが、この先イタドリ沢からに大倉峠まで相当笹薮の濃いところがあるに違いないです。 帰路クマの痕跡を見つけながら歩きました。最初サルかなとも思いましたが、糞の落ちていた場所から頭上の木を観察すると熊棚らしき痕を発見しました。細い木ですがウワミズザクラでまだ赤い実を残していました。 それからというもの、登りの時はまったく気が付かなかったのに、下りでは熊棚があちこちに目に入ってきます。毎日白砂山に登る人もみんな熊棚の痕に気が付かないのだなぁと納得です。 白砂山登山口まであと50mくらいのところで、クマ棚から落ちたウワミズザクラの大きな枝が落ちていました。登山者から熊はいますか?と良く尋ねられますが、もちろんいますよと答えているのは正解ですね。

夏の七千尺ルートトレッキング探査2024-9-6

前回歩いたのは内閣官房長官が新しい年号を発表する日だったのを良き覚えています。平成最後の年だったと思うと月日が流れるのは早いものでもう6年経ってしまったということです。その日は4月1日だったようで、だから途中までスキーを使って登ったような覚えがあります。 大きな溶岩がゴロゴロ転がっている水の登山の尾根は、風で雪があまりつかなそうだから右手の樹林帯の方をルートに選んだことも思い出します。夏の登山道ルートも展望が良くて、水の登山はとても素晴らしい山です。 鹿沢温泉で雪山賛歌が生まれたのは昭和の初めですが、七千尺コースという呼び名もきっとその頃に付けられたのでしょうか。昭和の初めころというのは、山スキーが流行っていたようだから鹿沢温泉と高峰温泉を結ぶ籠の登山と水の登山の稜線はツアーコースにもってこいの稜線だったでしょう。 この時期、黄色い小さな花のイワインチンがいたるところで咲いていて目を楽しませてくれました。たくさんの人が歩く登山道沿いで人に踏まれないようなところから茎をのばして咲いています。山頂付近ではオオカメノキかと思ったらなんとミヤマシグレでした。白砂山稜線のものと比べると実も葉も大きくてオオカメノキに似ています。 水の登山と籠の登山の間には赤ゾレという大崩壊地があります。浅間外輪山の仙人岳には白ゾレがありますが、残雪期に雪がいい感じにつながっていたりすると思わずよだれが出そうになります。今のところ、ちょっとデンジャラスなので理性で踏みとどまっています。 ところで稜線上の登山道は、ほとんど黒木の深い森の中に隠れているので涼しくて気持ちいいです。 最後のひと登りで籠の登山山頂です。ここは山頂が広くてしかも360度の絶景が楽しめます。 籠の登山もいつかスキーで登って滑ったことがありましたが、樹林が密でスキーコースには向かなかったように覚えています。現代的なバックカントリースキーよりもスノーシューツアーとして歩いたほうが楽しめそうです。 山頂から池ノ平湿原の火口の様子がくっきりとわかりました。古い火山であることがわかります。帰りは池ノ平湿原に寄っていくことに決めます。 途中びっくりするような落葉松の木に遭いました。野生の落葉松は、植林されたところで見る落葉松と同じ木だとは到底思えません。 池之平湿原へ下る遊歩道の木道が新しく付け替えられていました。歩くのがラクチンです。湿原の花はもうあまり見られないかと期待していませんでしたが、チョコチョコいろんな種類の花が楽しめました。 あとカモシカにも遭いました。ニホンジカもきっと群れで移動してくるのでしょうが、登山客の多い池ノ平湿原はカモシカにとって少しは安心して生きられるところのようです。 池ノ平外輪山の雲上の丘の斜面は、今シーズンのバックカントリーガイドで3度楽しませてもらいました。 最後に高峰林道を小一時間歩いて出発地の高峰温泉に戻りました。

夏の終わりの白砂山~八間山周回ルート探査2024-9-3

台風11号が発生した影響もあるのか、湿った南風の影響で天気予報は晴れマークにもかかわらず稜線には絶えず濃い霧がかかっていました。 せっかくの白砂山山頂ですが生憎の展望でした。 代わりにキアゲハが私たちの目前の地面に羽を広げて止まっているのを見つけました。 山頂で30分くらい天気待ちしましたが、なかなか霧が晴れそうにないので下山します。山頂から金沢レリーフまでは南斜面のガレ場にホソバコゴメグサの小さなかわいい花がたくさん咲いていて見事でした。 猟師の沢の頭付近で少し空が明るくなってきて、いよいよ白砂山山頂も霧が晴れて見えてくるかなと期待させてくれます。 しかしながらまたすぐに霧が湧き流れがっかりさせてくれます。でもその代わりに、稜線を流れる霧の風景も幻想的でいいものです。 堂岩分岐で往復ルートで戻るか八間山周回ルートにするかコース判断をしたときには、まさかこの後雨が降ってくるとは思いもしませんでした。予定通り周回ルートで八間山を目指します。 中尾根の頭から振り返ると、白砂山山頂部分だけはいつまでたっても雲がかかっているようでした。黒渋の頭まで樹林帯の尾根を鞍部まで下ります。その途中でポツポツと雨が落ちてきました。すぐに止むだろうと気にせず歩き続けましたが、次第に強くなってきて本格的な降りになってしまいました。 折り畳み傘もレインウエアも面倒でザックの中から取り出したのはずぶ濡れになってからでした。でもこの夏の終わりの時期ですから、雨にしばらく打たれるのが気持ちいいというのもありました。 八間山に着くころ雨もすっかり上がりました。振り返ると白砂山山頂の姿も薄く眺められました。 何もかもしっとりと濡れた雨上がりの森のたたずまいも格別です。そういえばアキアカネは、群れで飛んでいなかったです。もう山を下りる季節になったでしょうか。

第7回ノゾリチャツお散歩ツアー2024-9-2

土曜日のツアーは中止になりましたが、週明けの今回のツアーは台風がようやく消滅してくれて、なんとか実施することが出来ました。いつの間にかススキの穂も大きく伸びて秋の気配も感じられるようになった野反湖です。 ハクサンフウロやマツムシソウ、リンドウ、アキノキリンソウなどなど、台風の風に負けずに生き残った小さな花たちにたくさん会えました。丸山を下る遊歩道を歩いて湖畔に降りてみました。鏡のような湖面からの眺めもまた素晴らしいです。 午後はチャツボミゴケ公園へ。先週27日に来た時にチャツボミゴケの生命力の勢いを感じていたのでどう変化しているかとても楽しみにしていました。予想以上に緑色が増えていてびっくりしました。ゲストさんたちも初めてチャツボミゴケを見てその色の美しさに大感激していました。 まだまだチャツボミゴケの勢いは止まらなそうですから、これから秋へと季節が移ろう中でチャツボミゴケの新緑が増えていく様子が楽しめそうです。

芳ヶ平湿地群ネイチャーラーニング2024下見

台風10号はまだまだ想定外な動きで、これから各地への大きな被害が心配されます。関東北部の山は今週末から来週明けにかけて最接近しそうです。今日の天気も台風の影響で不安定な空模様でした。 でも穴地獄のチャツボミゴケは蛍光グリーンの新緑が少しずつ増え始めています。どんよりとした日でも目に鮮やかできれいです。 1万6000年前の火山活動によって形成された芳ヶ平湿地群の溶岩台地の森にひっそりとある三つの池を巡りました。 リンドウやアキノキリンソウ、シラネニンジンの花が咲いていました。オオカメノキの赤い実も熟し始めていました。 珍しいものを見ました。アズマヒキガエルの骨格標本です。大自然の小さなんドラマも感じられます。 ぽつりぽつりとは降られましたが、大したこともなかったので無事に下見が出来ました。途中気になっていた倒木も処理できました。本番の芳ヶ平湿地群ネイチャーラーニングが楽しみになってきました。

第2回ぐんま県境稜線トレイルDエリア探査2024-8-23

台風10号が発生してしまいました。来週中頃まで天気は悪くなることがあっても良くなることはないので、思い切って歩きました。雲海の下は雨雲だったようで、草津温泉は朝から雨でした。 横手山頂からの四阿山や草津白根山は、とても幻想的な景色が楽しめました。ところで今、草津白根山は噴火警戒レベルが1ですが、山頂部の登山道は立ち入り禁止です。山頂に立てないので、日本百名山巡りをしている人たちの中には、この横手山頂に登って草津白根山に登ったこととしているようです。この景色を見るとなるほどって納得ですね。 スキー場のゲレンデを下ってのぞき分岐から登山道に入りますが、このゲレンデからの景色がいつも癒されます。早朝のこの時間に歩くからさらにいいんでしょうね。 登山道に入ると、ほぼ根曲がり竹のジャングルの中を進みます。そしてぬかるみが待ち受けています。全区間を通して最悪のぬかるみがここです。ストックが一本あると便利です。ここは左端ぎりぎりを進みますが、最後の一歩でストックがあると大股でぬかるみにはまらず通過できます。 3時間弱で渋峠から赤石山着。山頂から大沼池を眺めながらゆっくり朝ごはんです。ムジナ平の水場でも見ましたがここでもイワウチワが見られます。 ちょうど午前8時赤石山からいよいよダン沢の頭へ。仙人池に寄ってみました。 この区間は、根曲がり竹の藪漕ぎを覚悟していましたが、全然大丈夫でした。ただ根曲がり竹でなくてもっと細いクマザサや草に覆われているところが藪漕ぎで鬱陶しいところもありました。これくらいは大したことないかな。個人的見解です。ただびしょ濡れになるのでレインパンツを履いたほうがいいです。 ダン沢の頭午前9時過ぎ通過。ダン沢の頭からは最近刈払いが終わったばかりでした。まるで高速道路です。オッタテ峰、オッタテ峠と快適に進めました。振り返るとダン沢の頭とオッタテ峰がわかります。 さらに小高山、五三郎小屋分岐と進みます。五三郎小屋の水場も確認。五三郎小屋は誰か使用した跡がありました。 大高山の登りはいつもけっこうつらいです。でもここを頑張れば野反湖までもう少しという感覚になります。ラジオでは静岡県でゲリラ雷雨みたいなことを報じていますが、この辺りは大丈夫そうです。魚野川源流をはさんで岩菅山連峰の空も明るいです。 大高山山頂午前11時通過。カモシカ平から三壁山までいよいよ最後の登りを頑張ります。三壁山からの下りで野反湖が眺められればもう一安心です。雷雨に逢わずに歩くことが出来ました。あと熊の痕跡も見当たらなかったです。 野反湖には午後1時ゴール。ジャスト8時間のコースタイムでした。赤石山からダン沢の頭までの登山道が整備されて歩きやすくなったらもっとコースタイムが縮むことでしょう。

続チャツボミゴケ公園~神秘の3池巡りガイド探査2024-8-24

2日前と同じチャツボミゴケ公園~神秘の3池コースをもう一度念入りに歩いてきました。歩くたびに何かしら新しい出逢いや発見があったりするものです。たった二日前に同じ道を歩きましたが、今日はアケボノソウが咲いていたのにはびっくりしました。うっかり通り過ぎていたのか、まだ花が開いていなかったのかわかりません。そして、チャツボミゴケの様子もたった2日前なのにガラリ印象が違うように感じます。 相変わらずまだまだ黄土色と焦げ茶色が目立つ穴地獄ですが、2日前よりなんとなく蛍光グリーンのチャツボミゴケの生命力みたいな勢いが迫ってくるようです。 ところでこちらは、7月13日のノゾリチャツお散歩ツアーの時に撮影した穴地獄のチャツボミゴケです。少しずつ蛍光グリーンのチャツボミゴケが回復しているように見えるので、これからも様子を見守っていきたいと思います。 大池もまた二日前とまた違った空気感が漂っているように感じました。今日は気温も少し低めだったし、風がほとんどなくて水深の浅いところは湖底が見通せたりするからでしょうか。 気になっていた苔の塊みたいなものは浮島でしょうか。大池もただの池ではなく16000年前の草津白根山の火山活動によってできた芳ヶ平湿地群の様々な形であることを教えてくれます。

第2回ぐんま県境稜線トレイルCエリア探査2024-8-20

台風シーズンになると、天気予報がコロコロ変わるので、稜線トレイルの縦走の日をいつ決めるかは直前になってしまいます。いつ雷雨にやられるか不安なので、どうしても慎重になります。野反湖の白砂山登山口を朝5時にスタート。思ったより空気は澄んでいて堂岩分岐からの白砂山の絶景がこれからの長い縦走路の心配を和らげてくれました。 薄い雲がかかり始めていますが、群馬県側の空は榛名山がはっきり見えるくらい青くて安心させてくれます。 新潟県側は、佐武流山が渋沢源流を挟んで大迫力です。苗場山、鳥甲山などもこの稜線でしか見られない姿を拝むことが出来ます。 堂岩山から白砂山までの稜線は、貴重な高山植物の宝庫だと思います。登山道は幅が狭く朝露でびしょ濡れになりますが、どこも人間中心主義というわけにはいかないものです。夏のこの時間であれば衣服がびしょ濡れになっても、ギラギラの太陽が昇ればすぐに乾いてしまうでしょう。いったん着用したレインウエアは蒸し暑いのでまたすぐに脱いでしまいました。 お花畑の花の種類もいつの間にかずいぶん変わっていました。休日で天気が良ければ賑わっているだろう白砂山山頂はとても静かでした。 白砂山からは先週刈払いされたばかりの登山道が忠次郎山まで続きます。この稜線に続く1本の登山道を前にして歩きたいと思わない登山者はいるでしょうか。 猟師の尾根の頭あたりまでなら白砂山から往復1時間です。上の間山なら白砂山から往復2時間みれば、奥深い群馬県境稜線トレイルの素晴らしさをさらに深く味わうことが出来ると思います。 ずっとNHKラジオを聞いて天気予報をチェックしていましたが、今日はどうやら夕方くらいまで天気も大きな崩れはなさそうで一安心です。 白砂山から赤沢山くらいまでは稜線漫歩を楽しみました。赤沢山を過ぎて忠次郎山への登りがちょっと辛くなります。上ノ間山山頂から赤沢山と忠次郎山が真正面に眺められます。刈払いされたばかりの登山道もくっきり稜線にわかります。 右下に白砂川源流の赤沢源頭斜面が広がります。スルスの岩洞に泊まってこの沢を遡行してくるのがクラシックな沢登りルートです。 今は崩壊して稜線ですが、かつては湿地があるようなところだったのかもしれません。稜線直下のガレ場でイワショウブが見られます。7月の歩いた時はキンコウカが見られました。 分水嶺が複雑な地形の白砂川源流域の山々です。どこがどうなのか見えてくるまで慣れていても少し時間がかかってしまいます。 ヤマドリゼンマイの群生地にキオンの黄色が鮮やかできれいでした。この近くにゲイロの井戸という湧水池があります。 めったに登山者もやって来ないから、ホシガラスが興味をもって近付いてきました。 忠次郎山まで快適に整備された登山道でしたが、いよいよここからは今年まだ整備が入っていない登山道になります。日当たりのいい斜面はやはり笹の伸びが激しいです。上ノ倉山の前後は胸まで笹が繁茂しているところがありました。笹の中が見えないので、ペースがゆっくり目になります。 行く手の大黒の頭山頂付近に雲がかかり始めました。やはり天気の急変が心配です。油断はできません。 まだ10時前なので、順調なタイムでここまで歩いてきていますがゆっくりはしてられません。白砂川源流のダイナミックな景色を眺めながら急ぎます。 ムジナ平避難小屋は最後に使った人がとてもきれいにしてくれたことがわかり安心しました。ムジナ平の水場も冷たくておいしい水がちゃんと出ていました。ここは笹清水と名付けてあるように、笹の葉っぱで上手にペットボトルに汲むのが効率的です。短時間で大量に汲めませんが名水だと思います。セバトノ頭を抜けると笹平です。この辺りも笹が盛大に伸びていました。胸辺りまで体が没してしまうところもありました。9月中に整備が入る予定だそうですが、なるべく早く入ってほしいところです。笹平の群馬側の斜面は四万川源頭になります。ここもなんとなく心が癒される景色で好きです。三坂峠には正午過ぎに到着。旧三国スキー場へのエスケープルートを下り迎えの車と合流しました。野反湖から旧三国スキー場まで8時間のコースタイムでした。登山口ではずっと工事現場になっていますが、登山者の通行は優先してくれています。

チャツボミゴケ公園~神秘の3池巡りトレガイド探査

7月後半から緑が少なくなって休息?期間に入っていた穴地獄のチャツボミゴケですが、少しずつ新緑の若芽が萌えだしているように感じました。残暑がまだ続くようですが、これから少しずつ秋へと季節が進んで行くにしたがい穴地獄が緑色に覆われていくと思います。 今日は穴地獄から水池、大池、八石山、平兵衛池と周りました。穴地獄より上の登山道沿いでは、花はもうほとんど見られず、ミヤマアキノキリンソウとヤマハハコ、シラネニンジンがほんの少しでした。大池ではいろんなトンボがたくさん飛び交っていました。ちょうど繁殖活動にはいっているようです。そういえば穴地獄でも盛んに産卵活動しているトンボがいました。 八石山で雨に降られることが心配でしたが、天気はなんとか持ってくれて助かりました。山頂から本白根や草津温泉の街並みが眺められて登った甲斐がありました。浅間山は残念ながら薄い雲に隠れてなかなか姿を現してくれませんでした。 六合村時代の24年くらい昔の穴地獄の写真を探してみました。古い木道の様子がわかります。その頃は穴地獄の古い看板があるのみで、チャツボミゴケという名前はまったく認識していませんでした。

亜熱帯の島々の海を、気ままにシーカヤックで旅したお話 Ⅰ

じりじりと紫外線が肌をこがす。モクモクと積乱雲が大きくなっていく。スコールは、茹だった身体には気持ちいい。突然、彼方の水平線に稲妻がおち、爆音が海面にとどろく。ダツが不意に舟の前方を飛んだりするので、これが運悪く身体に突き刺さったら大変。サメの恐怖も、いつも頭のどこかでちらついている。でも漕ぐごとに変幻自在な珊瑚の海の色彩は、リスクと隣り合わせでもシーカヤッカーを虜にするよ。 1 石垣島から竹富島へ 朝飯前に石垣の港の片隅でカヤックを組み立てていたら雷が鳴り出して、やがてスコールだ。ポツポツきたなと思っていたら、ザーッ、ゴーッと一気にくる。途中でホン投げて一目散にホテルへ逃げ帰る。昨日まではずっと晴天が続いていたらしいが、どうやら突然現れた小笠原諸島近辺の台風7号の影響から、大気が不安定になったらしい。これから旅がはじまるというのに、ついていない。私たちに対して、地元の人は恵みの雨だと喜んでいる。複雑な気分だ。7月下旬のこの時期、南の島では農産物が実りの季節らしい。台風がきて舟や飛行機が動かなくなると大打撃をうけるが、雨は貴重な水資源なのだ。タクシーの運ちゃんが話していた。 ゆっくり朝食を済ましてようやく雨があがった頃、ホテルをチェックアウトしてカヤックの場所に戻る。中学生がウミヘビを捕まえてワーワー騒いでいた。ペットボトルに封じ込めて、水族館状態だ。ウミヘビはハブよりもずっとずっと猛毒をもっていて、咬まれたら大変らしい。さすが南の島の中学生はワイルドだ。ただ安心なのは、おちょぼ口だからなかなか人を咬めないらしい。よかった。ウミヘビは、この後のツーリング中に、相棒が2度も出会った。一緒にならんで漕いでいると、突然ぎゃーっと叫ぶので何だと聞くと、波間に浮かぶウミヘビがいたというのだ。ウミヘビは、さすがに爬虫類で、胚呼吸のために海面に浮いていなくてはならないみたいだ。 出発時刻は11時になってしまった。港を囲む防波堤の向こうすぐに、竹富島が見える。不安定な天気が続くようなので、今日は小浜島まで行こうと、日程について相棒と話し合う。石垣島から西表島までは、日本最大の珊瑚礁が広がる石西礁湖と呼ばれるリーフの中を漕ぐ。昨日飛行機の窓から眺めた時、石垣島から竹富島あたりにはエメラルドグリーンの浅い珊瑚礁の海が光り輝いていた。私にとって未知の海だが、不安はない。それよりも、石垣島から7つの有人島への航路があり、石垣港に絶えず高速船が出入りしているので、それらの邪魔にならないように慎重に港からでなければならない。 港を抜け出ると、八重山の海がパッと広がった。心が軽やかになり、パドリングのリズムも身体から自然に生まれるようだ。今はめったにいないが、昔は竹富島の人が泳いで石垣島に遊びに来ることが良くあったそうだ。潮は石垣から竹富へ流れているのに、強い人がいたものだ。まさしく海人(ウミンチュ)。南の海の日ざしは、半端ではない。長袖シャツと日よけ帽は、強烈な紫外線から身体を守るためになくてはならない。気温32度なのに、長袖なんて暑くて着られるかと考えていたが、実際に海に出てみるとすぐに納得する。 船道を示す標識が島々の間に立っている。なぜなら高速船は、浅すぎるリーフの上を自由自在に航行することはできないからだ。しかし、シーカヤッカーは自由だ。潮がひいて漕げなくなれば、カヤックを曳いて歩けばいいのだ。ただこれから先、どんな大自然の脅威があるかわからない。竹富島には1時間ほどで着いた。少し休憩をして先へ進むことにした。小浜島を目指す。島の北側をかわそうとしたが、リーフの浅瀬に行く手を阻まれる。リーフでは岸から遠ければ深いという常識は通じない。海の真ん中で突然浅瀬が現れる。海の色を読んで、たとえ自由なカヤックといえども、航路を見つけていかなければならない。結局リーフの外に出るために、一度カヤックから降りて曳かなければならなかった。海の色が次々に変化する。陽の光の加減や水深、珊瑚礁や砂、海藻などの海底の地形によって、エメラルドからコバルトまでグリーンやブルーが変幻自在だ。たくさんの魚たちが泳いでいるのも、カヤックからのぞくことができる。突然、彼方の海上に稲妻が落ちる。そして、海面がさざ波立つかと思われるほどの轟音。楽しいパドリングが一転恐怖のパドリングに。私たちは、竹富島と小浜島の中間近くまで来ていた。追い風と追い潮に助けられて、軽やかに進んでいたのだ。しかし、相棒と撤退を決める。反転して、竹富島へ避難だ。今度は向かい風と逆潮に阻まれながら、必死になってパドリングする。スコールがさらに精神的に私達を追いつめる。相棒はあまりの向かい風に、愛用の笠を飛ばされてしまう。やっとのことでコンドイビーチに逃げ込むことができた私たちは、いきなり初日から雷という大自然の脅威に平伏させられることになってしまった。今日は小浜島なんてとんでもない、竹富島に民宿を探してのんびりしようということになった。