澄み切った秋空にそびえ立つ巨大ビルは、波や風に削られた断崖の迫力に匹敵する。カヤックにのんびり浮かびながら眺める一つ一つのビルも、車や人の騒音に満ちた大通りから見えるビルの表情とは違う。現代テクノロジーの粋を集めたビルは、手つかずの自然が残された知床とは対極の美なのかもしれない。
堂島川沿いには、江戸時代からの豪商の名前のついたビルや倉庫などが立ち並ぶ。右に大阪フェスティバルホールのビルが現れた時、高校大学時代のジャズコンサートに夢中だった頃のことがよみがえる。
堂島川は大阪湾に近付くにつれて川幅を大きくする。高層ビルは姿を無くし、
かわって倉庫や工場、市場など港らしい景色になる。空気は澄み切っていて、
やがて六甲の山並みも眺められる。USJの前を素通りし、天保山大橋をくぐって海遊館を目指す。USJと海遊館を結ぶ連絡船の乗客が手を振ってくれるので、
振り返す。
そろそろお昼近い時間で、どこか上陸したいなと思うが適当なところがない。
これは知床の海岸線よりもハードかもしれない。やっと陸に上がれば、ヒグマではなくガードマンがやってきて、「トイレだけですよ。」と注意される。海遊館の隣はこれまた大阪水上警察署で、まったく落ち着いていられないのだ。
いよいよ大阪港に出ると、巨大な船が頻繁に行き交っている。澪つくしのマークがある建物は、大阪税関である。国際都市の玄関港という雰囲気である。こんな小さな船でうろついていていいのかと、ちょっと緊張である。
観光船サンタマリア号とすれ違う。コロンブスのサンタマリア号を実物の2倍のスケールで復元したものだそうだ。本物はこの二分の一の大きさだとすると、
案外小さくて親近感が湧く。こんなもので大西洋を横断して新大陸を発見したんだから、大した人である。
やっと上陸できるところを見つけ、昼食にする。六合村に電話してみたら、強烈に寒くて、外は雪が舞っているらしい。こちらは居眠りしてしまいそうなくらい日差しがあたたかくて気持ちいい。
この時期日が暮れるのが早いので、そうのんびりはできない。1時間ほどの休憩で、尻無川を道頓堀方面向けて遡る。どうやら干潮らしく、運河は川になっていた。手を休めると下流に流されてしまうので、のんびり漕いでいくわけにはいかない。潮を計算に入れて計画を立てると、快適なツアーになるんだなあと実感する。
尻無川防潮水門の手前に、大阪市営の渡し船があった。観光ではなく、生活の足として、橋を建設するより割安だからと運営されているらしい。橋の代わりだから、もちろん乗船料は無料。大阪市には行政改革の嵐が吹き荒れているようだけど、こんなサービスは将来どうなるんだろうか。
出発地の桜ノ宮まで戻ると日が暮れそうだったので、中之島のバラ園に着岸してゴールとする。自然ではなく人工物の中を漕ぐ大阪運河ツアーは、かなり面白い。きっと運河は、ゴミだらけで悪臭が漂っているのではないかと懸念していたけれど、そんなこと無かった。この続編はぜひ計画する価値がある。