December 17, 2023

高間山の思い出話

今は林道で楽に高間峠までやって来れる。峠からさらに山頂まで整備された登山道があって15分くらいで山頂に立てることだろう。高間山というと、30年くらい前の林道吾嬬山線が建設中の頃の話が思い出される。高間山は、六合村と長野原町と吾妻町の3町村境界にある1341.7mの小さな山だが、この辺りでは1番標高が高く、1度登ってみたかった。 高間集落あたりから高間山への登山道があるらしいので、探しに来たことがあった。今ではもう藪の中からも昔の開拓農家の残骸は見つからなくなってしまったが、その時はまだいくつかあった。最終人家の倉庫の中で花インゲンの皮むきをしていたおじいさんに聞いてみることにした。ちょっと耳が遠くて説明するのに手間取ったが、話が理解できると親切に教えてくれた。高間山への登山道はこの下の左へ行く道だそうだ。な~んだそうだったのか。ついでに王城山への道もあるか聞いてみたら、さらに水平に行けばあるという。やっぱ土地の古老は何でも知ってる!丁寧に礼を言って出発しようとしたら、おじいさんはわざわざ道まで出てきて、さらに人なつこく同じことを説明してくれ、人情の深さに感激。しかし行かねばならない。何度も丁寧に礼を言って、出発した。 北風が汗ばんだ身体に気持ちよく、どんどん進んで行く登山道入り口らしきものはいつまでたってもない。林道がこのまま行くと長野原町の貝瀬へ下っていってしまうだろうという地点でストップ。登山道らしき獣道やら仕事道を探し回るが、どれも違う。おじいさんこれはどういうこと!そういえば、途中で畑仕事をしていた別のおじいさんがいたっけ。ようし、その人に聞いてみよう。てけてけ来た道を戻る。収穫の終わった花インゲン畑で、なにやら仕事中のおじいさんがいた。大きな声で「高間山の登山道はどこですか。」と聞いてみた。おじいさんは怪訝な顔をしている。どうも意味が通じないのかと思い、わかりやすくゆっくり、「高間山に登りたいのですが、高間山の登山道の入り口はどこですかあ。」と聞く。するとおじいさんはなんと「ここが高間山だ。ここら一帯すべて高間山と言うんだ。」と答えた。なかなかこちらの意味が通じないようなのでしつこく聞き返すと、最後にこの辺り一帯の山はすべて高間山と言うんだと煙に巻かれてしまった。 まだあきらめるわけにはいかないので、「じゃあ、登山道の入り口はどこですか。」と切り返してみた。すると、「登山道の入り口はこのずっと下の広池というところだ。みんなそこから登るんだ。」と、またもやあっと驚く言葉が返ってきた。なるほど国道292号線沿いの広池集落から山腹のここまで心細い村道が上がってきているのだが、考えようによってはその通りだ。珍名答に思わず納得しそうになって唸ってしまった。 最後の粘りでもう一度丁寧に聞いてみた。「高間山の山頂へ行く登山道なんですが、どこですか。」と。そしたらなんと「それはない!」という答えが返ってきた。高間山山頂へ行くには、ちゃんとした登山道はなく、沢か尾根を適当に登って行くしかないとのこと。「昔はあったが、そんな道はもうなくて、知ってるのは年寄りくれえだ。わしも年寄りだけど、もっと年寄りだ。」 そんな高間山頂には、その後雪の時期に気の合う相棒と初めて立った。