ガスが晴れていく。湖面を取り囲む山々が白一色の世界からみるみる浮き出てきた。ホワイトアウトの湖面を、GPSをお守りのように信じて歩いていたことが、まるでお馬鹿さんだったように思えてしまう。ホワイトアウトの中では湖面の真ん中にポツンと立っていた自分なんてとても想像できなかったので、なぜだか可笑しさがこみ上げてきた。これまでの入山の苦労などどこかへ吹き飛んでしまう。
翌日は大快晴。昨日の三壁山の滑降は、例年になくブッシュが煩わしいものの、パウダーの浮遊感を楽しんだ。今日は、白砂山を目指す。ウロコテレマークは、上り下りのある長丁場の今日のようなルートでは、性能を最大限発揮する。シール登行で高度を上げると、背後に野反湖とエビ山が見え始めた。エビ山へ向かった仲間と無線交信。彼らのトレースがはっきり見え、ひとかたまりになって休んでいる人影もかすかにわかる。
予定時刻の10時半、約2時間で白砂山が目前に眺められる稜線に出た。昨年の3月よりもずっと積雪が少ない。新雪の下にはクラスト面があり、どうも雪崩れやすい条件。ソロリソロリと確かめながらルートを決める。昨年のように白砂直下の雪壁を直登した方が効率的だったが、ルンゼをトラバースするところが雪崩れそうで、途中から尾根ルートに切り替えた。アイゼンに履き替え、午後12時49分山頂に立つ。
無風快晴。360度の大パノラマ。北アルプスまでが綺麗に眺められ、横手山の右ギリギリに槍ヶ岳がはっきり見えたのは、新しい発見だった。下山の滑降は少し気を引き締める。猟師ノ沢源頭斜面は、すでにもう雪が腐っていて、デブリのない綺麗な外見とはほど遠い。慎重に高度を下げた。途中からトラバースする。ウロコテレマークで、効率的なルートを進む。
午後3時半、稜線から最後の尾根への下り。ハンノ木沢からシール登行で茅の尾根に這い上がって野反湖面に滑り込む。日が陰ると一度緩んだ雪面が急激に氷化して、スキーが予想以上に滑ってくれる。午後6時下山。