2004年11月20日

 能登島は、すでにカヤックで一周したことがある。記録を調べてみると1996年の11月3~4日だから、もう8年以上前になる。そのときは、和倉温泉の有名旅館加賀屋の前の桟橋から出艇し、七尾北湾を横断して穴水漁港でテント泊しながら時計回りで能登島をまわった。雷雨どころか北風の影響もほとんど受けず、二日間とも快適なツーリングだったことを覚えている。そういえばその時は、三ヶ口瀬戸にはまだ「ツインブリッジのと」はなかった。当然、ひょこっり温泉「島の湯」もなかったから、帰りは和倉温泉の共同浴場で汗を流した。

 10時半、向田という漁港から七尾北湾に漕ぎだす。筏釣りの人たちがのんびり糸を垂れている。正面に能登半島のなだらかな山並みが広がる。大きな湾奥に見える町並みが、きっと以前訪れた穴水だろう。この付近には小さな無人島がいくつも浮かんでいて、そのうちの一つの島に近付いてみる。鳥のさえずりが盛んに聞こえてくる。こういった場所は外敵がないので、おそらく海鳥や野鳥のコロニーだろう。海は澄んで綺麗なので、箱メガネで海中の生き物を観察してみる。風は西から東へ吹いていたので、時計回りの方が楽だと思ったけれど、今度は反時計回りで回ってみようと考え西に進路をとる。

 家族旅行村WEランドというキャンプ場のある牧鼻を過ぎると、案の定向かい風が強くなってきた。GPSの速度は時速5~6kmしかでない。やや岸寄りにコース取りをする。夏の入道雲を思わせる雲が西の空を覆っていたが、これが雷雨の前兆だとは予想していなかった。とりあえずは遙かに見える吉ヶ浦鼻をかわして、「ツインブリッジのと」をひたすらめざしていた。能登島はリアス式の入り組んだ海岸線なため、波風がたてばいつでも湾奥に逃げ込める利点があるので安心だ。島の大きさも手頃だし、道路や集落も海岸線に沿ってある。初冬の日本海でカヤックツーリングするには最適なフィールドだ。吉ヶ浦鼻付近で行動食をとる。そして、いよいよ三ヶ口瀬戸に入る。潮はほとんど動いていないようで、向かい風の影響だけだった。橋桁の下でのんびり竿を出している釣り船があった。

 七尾西湾に入るとやや横風に変わってきたが、スピードは出なかった。途中の海岸線で、波に削られてできた芸術的な崖があった。滑らかに削られた黄色い砂の地層から、いろいろな形の白い大きな岩がオブジェのように立体的に現れていたりするのだ。約一時間ほどで能登島大橋に漕ぎ着く。時刻は2時を過ぎていた。橋をくぐろうとした頃、雨がぽつぽつときた。ちょうどいいやと雨宿りする。結構な雨足になり、橋の下は絶好の避難場所だ。10分ほどして雨足が鈍ってきたので、もうじきやむだろうと判断して漕ぎ出す。ところが、今度はさらに雨足が強まり土砂降りだ。よく見たら雹も混じっていて、デッキの上をピンポンのようにはね回っているではないか。突然稲光があったかと思うと、大きな爆音!こりゃやばい、逃げなきゃ。

 さっきまで漕いでいた七尾西湾の方に稲妻が落ちる。なんで突然こんな状況になるの?土砂降りの中、上陸地点を探す。無人の古い別荘のような建物の近くに雨をしのげるようなあずまやがあったので、急いで上陸する。服が濡れて急に寒くなる。防寒具や替えの服など持ってこなかったので、着替えることもできず震える。雷の音がやや遠くなってきたので、とにかくゴール地点のひょこっり温泉島の湯へ急ぐことにする。そこまで辿り着けば、いざとなればなりふり構わずすぐに温泉に飛び込めばいいのだ。

 午後3時半、ひょっこり温泉島の湯の前のビーチに上陸する。いつしか雨は小降りになり雷は遠くへ過ぎ去っていた。最後に手痛い仕打ちを受けた。熱い風呂に入る前に、向田へタクシーで戻って車の回収をする。運ちゃんによると、石川県は雷が日本一だそうだ。えっ、日本一は雷と空っ風の群馬県じゃなかったの。冬の日本海は、雷にご用心である。でも、初冬の能登島はシーカヤックツーリングのフィールドとしてとても魅力的だと感じた。初冬の日本海を漕ぐシーカヤッカーにとって雷雨に逢うことは一度は受けなければならない洗礼の儀式なのかもしれない。

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