じりじりと紫外線が肌をこがす。モクモクと積乱雲が大きくなっていく。スコールは、茹だった身体には気持ちいい。突然、彼方の水平線に稲妻がおち、爆音が海面にとどろく。ダツが不意に舟の前方を飛んだりするので、これが運悪く身体に突き刺さったら大変。サメの恐怖も、いつも頭のどこかでちらついている。でも漕ぐごとに変幻自在な珊瑚の海の色彩は、リスクと隣り合わせでもシーカヤッカーを虜にするよ。

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石垣島から竹富島へ

朝飯前に石垣の港の片隅でカヤックを組み立てていたら雷が鳴り出して、やがてスコールだ。ポツポツきたなと思っていたら、ザーッ、ゴーッと一気にくる。途中でホン投げて一目散にホテルへ逃げ帰る。昨日まではずっと晴天が続いていたらしいが、どうやら突然現れた小笠原諸島近辺の台風7号の影響から、大気が不安定になったらしい。これから旅がはじまるというのに、ついていない。私たちに対して、地元の人は恵みの雨だと喜んでいる。複雑な気分だ。7月下旬のこの時期、南の島では農産物が実りの季節らしい。台風がきて舟や飛行機が動かなくなると大打撃をうけるが、雨は貴重な水資源なのだ。タクシーの運ちゃんが話していた。

ゆっくり朝食を済ましてようやく雨があがった頃、ホテルをチェックアウトしてカヤックの場所に戻る。中学生がウミヘビを捕まえてワーワー騒いでいた。ペットボトルに封じ込めて、水族館状態だ。ウミヘビはハブよりもずっとずっと猛毒をもっていて、咬まれたら大変らしい。さすが南の島の中学生はワイルドだ。ただ安心なのは、おちょぼ口だからなかなか人を咬めないらしい。よかった。ウミヘビは、この後のツーリング中に、相棒が2度も出会った。一緒にならんで漕いでいると、突然ぎゃーっと叫ぶので何だと聞くと、波間に浮かぶウミヘビがいたというのだ。ウミヘビは、さすがに爬虫類で、胚呼吸のために海面に浮いていなくてはならないみたいだ。

出発時刻は11時になってしまった。港を囲む防波堤の向こうすぐに、竹富島が見える。不安定な天気が続くようなので、今日は小浜島まで行こうと、日程について相棒と話し合う。石垣島から西表島までは、日本最大の珊瑚礁が広がる石西礁湖と呼ばれるリーフの中を漕ぐ。昨日飛行機の窓から眺めた時、石垣島から竹富島あたりにはエメラルドグリーンの浅い珊瑚礁の海が光り輝いていた。私にとって未知の海だが、不安はない。それよりも、石垣島から7つの有人島への航路があり、石垣港に絶えず高速船が出入りしているので、それらの邪魔にならないように慎重に港からでなければならない。


港を抜け出ると、八重山の海がパッと広がった。心が軽やかになり、パドリングのリズムも身体から自然に生まれるようだ。今はめったにいないが、昔は竹富島の人が泳いで石垣島に遊びに来ることが良くあったそうだ。潮は石垣から竹富へ流れているのに、強い人がいたものだ。まさしく海人(ウミンチュ)。南の海の日ざしは、半端ではない。長袖シャツと日よけ帽は、強烈な紫外線から身体を守るためになくてはならない。気温32度なのに、長袖なんて暑くて着られるかと考えていたが、実際に海に出てみるとすぐに納得する。

船道を示す標識が島々の間に立っている。なぜなら高速船は、浅すぎるリーフの上を自由自在に航行することはできないからだ。しかし、シーカヤッカーは自由だ。潮がひいて漕げなくなれば、カヤックを曳いて歩けばいいのだ。ただこれから先、どんな大自然の脅威があるかわからない。竹富島には1時間ほどで着いた。少し休憩をして先へ進むことにした。小浜島を目指す。島の北側をかわそうとしたが、リーフの浅瀬に行く手を阻まれる。リーフでは岸から遠ければ深いという常識は通じない。海の真ん中で突然浅瀬が現れる。海の色を読んで、たとえ自由なカヤックといえども、航路を見つけていかなければならない。結局リーフの外に出るために、一度カヤックから降りて曳かなければならなかった。
海の色が次々に変化する。陽の光の加減や水深、珊瑚礁や砂、海藻などの海底の地形によって、エメラルドからコバルトまでグリーンやブルーが変幻自在だ。たくさんの魚たちが泳いでいるのも、カヤックからのぞくことができる。突然、彼方の海上に稲妻が落ちる。そして、海面がさざ波立つかと思われるほどの轟音。楽しいパドリングが一転恐怖のパドリングに。私たちは、竹富島と小浜島の中間近くまで来ていた。追い風と追い潮に助けられて、軽やかに進んでいたのだ。しかし、相棒と撤退を決める。反転して、竹富島へ避難だ。今度は向かい風と逆潮に阻まれながら、必死になってパドリングする。スコールがさらに精神的に私達を追いつめる。相棒はあまりの向かい風に、愛用の笠を飛ばされてしまう。やっとのことでコンドイビーチに逃げ込むことができた私たちは、いきなり初日から雷という大自然の脅威に平伏させられることになってしまった。今日は小浜島なんてとんでもない、竹富島に民宿を探してのんびりしようということになった。

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