2012年4月14日 Chapter 1 距離約10.2km鴛泊登山口(標高200m)AM6:00~アフトマナイ川(標高322m)AM9:45 前夜ポン山さんからメールがあり、「登山口までの道路が除雪されたそうでどうしますか?」ということで、海抜30mの私達が泊まっている宿からスキーを履いてスタートではなく、海抜200mの登山口に午前6時集合ということに急遽予定変更した。装備はなるべく軽量化を心がけて、雪山三種の神器は持たない。昨年の反省で必要なし。今日は天気も安定していそうなので、目出帽とか替えの手袋とかも、置いていく。水分補給は、2人で2.5Lの水筒は重いので半分くらい入れたのと、500mlのオレンジジュース1本ずつ。食料は、自分たちで用意したハム入りサンドイッチと差し入れのおにぎり3個、バナナ2本、行動食のチョコなど。装備はデジタル一眼レフカメラに、GPSと予備の電池、ツェルト、ヘッドランプ、緊急修理キット。特にヘッドランプは必携である。そしてスキーシール。いつもより背中が軽く、楽ちんそうである。前夜の雪解け水がそのまま凍ったツルツルの道を冷や冷やしながら登山口へ向かう。 午前6時に着くと、ポン山さんがすでにいつでも出発できる準備で私達を待っていた。ザラメの雪がまだしっかり凍っているので、シールを貼ってポン山の裏側の標高350m付近まで歩くことにする。午前6時5分登山口をスタート。風もなく静寂の森の中を、スキーやスノーシューやモービルだらけのトレースに沿ってしばらく歩く。途中で朝日が黒木の森に眩しく差し込んできて、朝宿でも日の出を見たので、今日は2回清々しさが味わえて得た気分。甘露泉水付近からトレースを左に外れて、ポン山の裏側の標高350m前後の雪原を目指していく。 ポン山裏側の標高350m付近の雪原に出ると、視界が開けて朝日に輝く秀麗な利尻山が目に飛び込んできて、気持ちよい冷気の中で身体も少し汗ばんで温かくなってきたのもあって、とっても気持ちいい。しかし、いよいよこれから、この威圧するかのような迫力で私達を見下ろしている利尻山を、ぐるっと1周してこなければ今日が終われないんだと思うと、チョッピリ不安でドキドキである。 この雪原でシールを剥がして、ここからウロコテレマークスキーの機動力の本領発揮である。2万5千の地形図の読図に慣れていても、やはり自分のイメージと実際の地形は違っていることが多い。さらに今は積雪期なので、思ったより良かったりもするけど、悪い場合ももちろんあったりするので、気は抜けない。これから横断する初っぱなのいくつかの沢は、思ったより深くて急な印象が残っていたが、実際は今年は積雪が多いせいか斜面がゆるく感じられた。また時計回りに進むので、斜滑降する斜面がちょうど朝日で緩み出していて、急斜面でもアイスバーンでないのが良かった。北稜の東側の長官山に突き上げる沢がちょうど正面に眺められた。北稜からこの沢方向に大きなスキー向きの斜面が広がっているのがわかる。ところでポン山さんはこの日のためにトレーニングをされてこられてもいるし、十分1周できると思うのだが、やはり本人は心なしか緊張していて、ちょっと無理してぴったり私の後を付いてきてくれているような感じがする。家内は、ハードなスキーツアーにはもう慣れっこなので、まったくマイペースで一番後ろからやって来る感じ。 姫沼の上部の雪原に立つと、振り返るとペシ岬がまだこんなに近く。けっこう歩いた気がするのに。ナビゲーションはGPSに大きく頼っているのだけど、最終的に効率的な進路を決めるのはやはり人間の判断力である。時計回りに1周なので、つねに右へ右へを意識しないと、知らない間に高度を落として海岸部へ無意味な下降をしてしまうし、大きな沢を横断するときは、対岸のどの辺りを登りルートにするか目安を付けないと、無駄な労力と時間を消費することになる。この沢の左右の尾根もスキー向きの斜面が広がっていて、昨年ポン山さんと滑ったところだ。豊漁沢川も条件が良ければ山頂から滑降できるようで、テレマークスキーではハードかもしれないが挑戦できると思う。そうすると海まで滑ることが可能なので、標高差721mのダウンヒルも夢ではない。 いよいよ豊漁沢川の横断にさしかかる。オチウシナイ川は山頂直下が急で複雑なルンゼになっていて、こんなところをエクストリームスキーヤーは滑るらしい。今日なんか良いコンディションかもしれない。しかし上から下はたぶん見えないだろうから、一人でやるのはかなり危険なことにちがいない。ところで利尻島には羆もキツネも鹿もウサギもいないが、シマリスは見ることが出来る。先頭を歩いていると突然シマリスが木の根本の穴から驚いて飛び出してきた。大きな声でみんなに教えると、すぐに近くの木の根本の穴に隠れてしまったが、また突然飛び出してきてしばらく私達を楽しませてくれる。雪の季節は、足跡しか見たことがなかったので貴重な遭遇。やはりふだん人が入らない森の奥深くだったので、シマリスの方もびっくりしたのかも知れない。 日がまだ高くないこの時間までは、斜面がアイスバーン気味なのでスキーがよく走る。今のうちに距離をできるだけ稼ぎたいが、チョコチョコっと写真撮影がてら止まるものの、ほぼ休憩無しだったので、アフトロマナイ川まで頑張って、そこで大きな休憩を入れることにする。 さて、私達が使用しているスキー板、カルフガイドは非常に万能である。カルフというスキーメーカーは昨シーズンで無くなったらしいので、もうこの板は手に入らなくなるのが残念。だから家内も私も予備の板を実はストックしてある。私が今使っているのは長さ185cm。板のスペックは107,78,98で、これならとても快適なテレマークターンが出来る。ただし滑降専用ではないのでベントは柔らかくてへなへな。アイスバーンやハードパックスノーは苦手である。サラサラの新雪は逆に気持ちいい。そして、スキー板の滑走面に魚のウロコのように刻みが入っていて、ちょっとした斜度ならシールを貼らなくても登ることが出来る。ザラメ雪などほぼシール登行に劣らない性能を発揮することもあるくらいである。このスキー板にプラブーツとツアービンディングを組み合わせれば、ほぼどんな雪山でもカバー出来る。そんなウロコテレマークスキーで歩きながら高度を上げ、適当なところで今度は斜めになるべく長く滑っていくという繰り返し。無数の谷を越え、尾根を越えて行く。アフトロマナイ川にも、ちょっと上流の地点だが昨年とほぼ同じ場所に出た。1周のトレースは、やはり標高350m前後のラインが効率的なよう。 Chapter 2へ