アフトマナイ川(標高322m)AM9:45~マヤオニ沢(標高520m)PM0:45距離約7.1km

アフトロマナイ川もまた山頂からのエクストリームスキーヤーの滑降記録があるらしい。私達が休んでいる場所はとてものどかな雰囲気が漂っていて、山頂直下の荒々しさとは別世界である。さてゆっくり休憩もしていられず、次の目標地点である南稜を目指して歩き出す。まだ3人とも調子が良い。

AM10:19

しばらくは森林限界下部の森の中を、谷を跨ぎ尾根を越えるようにして斜面をトラバースするように進む。日が当たるところはザラメが緩みだす。まだ凍っているところで斜滑降し、融けているところで斜め登りをすると効率的なので、なるべくそのようなルート取りを心がける。これからの長い行程を考えると、ついつい心がはやり気味になってしまうが、やはり冷静にマイペースでコツコツ進まなければと思う。時々樹林越しに垣間見える東稜下部のスキー向きの美味しそうな二つの大斜面が、滑ったら気持ちよさそうだなと、 心を和ませる。

AM10:43

昨年の記録ではヤムナイ沢を標高330mで横断していて、今回はもう少し上流で横断するよう意識的に高度を上げるようにトラバースしていく。なぜなら少しでも1周の距離を短くして時間短縮できるからと考えるのだが、この辺が匙加減の難しさでもある。高度を上げるには登りで体力を消耗したり、沢が深くなったりするリスクもある。やがて眼下の海岸に灯台が現れた。利尻ローカルのポン山さんがすぐに石崎の灯台だと教えてくれる。鬼脇はそのすぐ先である。ポン山さんによると、石崎の灯台が見えた時、自分たちが確実に進んでいることをようやく実感できて、1周は出来きそうだなと初めて自信が持てたそうだ。しかしまだまだ、1周の3分の1といったところである。家内が1周のどれくらい来たのか何度も尋ねてきたが、「どれくらいかなぁ。」と濁す。こういう質問に答えるのも、質問者の心理の影響を考えると回答の匙加減が難しい。

AM10:48

だだっ広い東稜下部をトラバースしていくと、今まであまり風を感じなかったのに、急に正面からの風が強くなってきた。こんなこともまた、自分たちが時計回りに円を描きながら確実に進んでいることを実感させてくれる。

AM10:53

やがて大きな沢床でそれとすぐわかるヤムナイ沢が現れた。沢床まで気持ちよくテレマークターンで滑り降りる。いくつもの新しいモービルの跡が残っていて、上の方でエンジン音が聞こえてくる。急な対岸の良いところを狙って斜めにウロコを利かせて登る。

AM11:06

いよいよ南稜下部の一端に立つ。南稜と仙法志稜とを隔てるマヤオニ沢まで、南稜下部はデルタ状に裾野を広げているが、もちろん平原になっているのではなく、複雑に支沢が入り込んでいてルートは単調ではない。昨年もこの南稜下部では強烈な向かい風に悩まされ、地図を広げることができなくて困った。今年はこの辺りの地形がだいたい頭に入っているので、地図を見ないでなるべく高度を上げるように進路をとった。そして、風の弱いところでお昼休憩にした。

AM11:14

尖った塔のような岩峰が、日本離れした特異な景観で迫ってくる仙法志稜を眺めながら、おにぎりの美味いこと。三つ目は何とか思いとどまり、3時のおやつにとっとく。今のところなかなか快調に進んできているので、気分的には余裕である。しかし何があるかわからないので、今日はヘッドランプも覚悟で行きましょうとお互いに意思確認。

AM11:46

正面にヤムナイ沢の夏でも万年雪が残るという源流部が見える。スキーでどの辺りまで詰めていくことが出来るか、いつか自分の足で確かめに行ってみたい沢が、利尻山の周りにいくつもあるが、このヤムナイ沢もそのうちの1つである。

AM11:47

まだ半分も来ていないので、お昼休憩をあまりゆっくりもできず先を急ぐことにする。昨日はガスでホワイトアウトのこの南稜下部を、一人で標高700mまで往復したので、そのトレースと交差する地点を楽しみにしていると、あったあった、そこにあった。晴れていればこんな雄大な景色の中を歩いていたのかと思うと、ホワイトアウトの中を歩くことがなんと空しいことか。昨日はカラスが近くまでよく寄ってきたけど、何故だったんだろう・・・・

PM0:06

私達より上部の南稜下部の大斜面に、たくさんの人影が豆粒のように見えた。どうやらこちらの方に滑り降りてくる様子。彼らの登りのトレースをどこにも見た覚えが無くて、疑問が一瞬浮かんだけど、すぐに納得。近付いてくると、アルペンスキーヤーとボーダーの混成で、みんな楽しそうに滑っている雰囲気が漂っていた。テレマークターンをしているテレマーカーを探したけど、見つからない。

PM0:07

鬼脇ポン山方向へと滑り降りていった彼らとすれ違い、私達はひたすらトラバースを続ける。突然後ろのポン山さんから、足が痙りそうだと声がかかる。緊急事態である。立ち止まって、足の様子を見る。以前山岳マラソンに初めてエントリーして、自分も足を痙った経験があるので心配する。しばらく休憩すると、足をかばいながら無理せず行けば大丈夫そうだというので、ちょっとスピードをゆっくり目にして前進することにする。ヘリかモービルで救助してもらうなら別だけど、この場所から自力で道路まで下るとすれば、下山も前進も気分的には変わらないかも。

PM0:08

マヤオニ沢まで、眼下にオタドマリポン山、メヌウショロポン山、仙法志ポン山などが眺められる。今年の豊富な残雪量ならまだ楽にアプローチできそうである。今回のルートは昨年より標高100mほど高いところを進んでいて、昨年よりずっと効率的なルートである。ただ残雪状況で尾根上のハイマツなどが出てくると、進路が妨げられたりもするので、やはりその時その時の状況判断になるだろう。

PM0:08

その後もポン山さんは何度か足が痙りそうになって、その度に少し立ち止まったりしたけれど、なぜだか足の調子が少しずつ回復してきたようだった。時計回り1周というのは、つねに同じ方向で登りが続いたりするので、きっとふだんあまり使わない筋肉を酷使して痙攣するのかも知れない。時々快適な斜面のダウンヒルなどがあったりして、こわばった筋肉がほぐれたりするのが良かったのかも。なんにしろポン山さんの、今回のスキー1周にかける強い思いがあってのことではあるが。

PM0:27

そろそろマヤオニ沢だろうと思ってもなかなか辿り着かなくてちょっと精神的に疲れた頃、今度こそマヤオニ沢だと間違いなく確信できる地点に出た。標高600m付近から見下ろすマヤオニ沢は広々としてなだらかな雰囲気が漂っているが、対岸の尾根に雪庇が出ていて一瞬どうしようかと迷う。雪庇がなくなる下流方向に高度を下げるルートをとれば、問題は簡単に解決できるがそれはもったいない。よく見ると一部雪庇の切れている箇所を見つけ、急斜面そうだけどそこを突破口に狙うしかないと判断した。

PM0:30

まずはマヤオニ沢の沢底へ、優雅なテレマークターンで気持ちよくダウンヒル。斜登行と斜滑降の繰り返しの利尻山スキー1周では、ウロコテレマークスキーの楽しさを最高に感じるひとときである。

午後0時30分

仙法志稜と南稜の絶壁に挟まれたこのマヤオニ沢は、私達の出発地点である鴛泊登山口のちょうど反対側。つまり1周の半分進んだということ。ポン山さんが、ここから先はほとんど行ったことがないので、どんな景色が見られるかを一番楽しみにしていたところだそうである。確かに仙法志と沓形の道道の区間は、車からは高い崖で利尻山がまったく見えないので、斜面の様子がよくわからずローカルスキーヤーでも入る人が少ない。私達にとってもこの先は、時間切れで仕方なく沓形への下降ルートを余儀なくされた昨年の経験があるので、この先にどんな景色が飛び出してくるか、とても楽しみなのである。

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