奄美大島シーカヤッキング2004
今までカヤックでいろんな海を漕いできて、ウミヘビやダツ、でっかいクラゲやサケの死骸、飛び魚などなど、いろいろな生き物に遭遇した。中でもいちばん大きな生き物は、知床のヒグマと小笠原父島のイルカかなあ。父島はクジラで有名なところだから遭遇できるかもと思ったけど、叶わなかった。ところが今回、奄美の海で突然クジラに遭遇してしまった。宿のご主人であるリキさんからは、奄美の海には冬になるとクジラの目撃情報があるということを聞いていた。それを裏付けるかのように、その前日の新聞に徳之島でザトウクジラが目撃されたという記事が一面トップで報じられていた。なんとなく小さな期待感も無くはなかったのだけれど、ほんとうに遭遇するなんてこれっぽっちも思ってはいなかったのだ。奄美ではカケロマ島の徳浜沖が、クジラに出会える有力ポイントらしい。昨年2月、カヤックでカケロマ島一周をした時に徳浜沖を通り過ぎたけど、もちろん会えなかった。 今回の旅の最終日、海はカヤック日和だった。半日しかないけど、奄美本島とカケロマ島に挟まれた大島海峡から太平洋に飛び出してみようと、皆津崎をかわしてホノホシ海岸へ行ってみることにした。大島海峡から外海の太平洋へと漕ぎ出すと、海の色が一気にエメラルドグリーンからディープブルーに変わる。さすがに外海らしく、小さなうねりといえども岩壁にぶつかる波のパワーはすごい。緊張する。皆津崎をかわす前にちょっと上陸休憩した。このほんのわずかなタイミングが、クジラとの出会いを実現させてくれたのだが、誰が想像できただろうか。いよいよ皆津崎をかわす時がきた。その時大きく岬から離れて沖を漕いでいたら、きっと正面からクジラと遭遇していたにちがいない。しかし、私たちは岬に小舟がやっとすり抜けられるほどの小さな水路を見つけた。距離を少しでも短縮するために、この水路を抜けた。ちょうど抜け出るかどうかという時、前席を漕いでいた家内が素っ頓狂な叫び声をあげた。私も反射的に黒い大きな物体を見た。すぐにクジラが頭に浮かんだ。もしクジラだったら、しばらくしたらまた姿を現すかもしれない。緊張しながら前方の海面の様子に集中する。すると突然大きな物体が海面に現れ出た。まさしくクジラだ。背中だろう。すぐに尾ビレが出た。この尾ビレの形、昨日の新聞に出ていた徳之島のザトウクジラと同じだ!おっと、背中から潮を吹く!! クジラまでの距離、4~50mくらいだろうか。前席の家内にビデオで撮影するよう咄嗟に叫ぶが、家内からこれ以上近づかないようにというパニック気味な言葉がすぐにかえってきた。 この時、クジラに近付きたかったが、とうとう近付けなかった。家内が近付かないでと訴えたからではない。距離があっても、クジラの存在感がビンビン伝わってくるのだ。アウトドア雑誌の写真なんかで、カヤックのすぐそばでクジラが海面から飛び出しているようなシーンがあるが、あんなのよほどの勇気がなければできないことだと実感した。何度か私達の前にクジラは姿を現してくれた。しかし、前に進むことができず凍りついた私達の前からは、みるみるクジラは遠ざかって行った。クジラは1頭ではなかった。少なくとも2頭を確認した。太平洋の沖合へ消えていった。