2009年8月11~12日

1日目

なんとなく飛島へ引き寄せられた2009夏の海旅。いつも鳥海山スキーで山頂から日本海に浮かぶ飛島を眺めて、その度にカヤック漕いで行ってみたいなぁと思っていた。どこへ行っても混雑するお盆休みの限られた日数でさてどうしたものか・・・実は決行直前まで、事前の計画や準備がまったく出来ないで、行き当たりバッ旅な飛嶋横断でした。

離島の海旅はやっぱりフォールディングカヤックがいい。もし帰りの日に海が少しでも荒れたら、無理せず折り畳んでフェリーの手荷物にして戻ってくればいい。そう考えられると気が楽である。一人旅ならK1である。もうかなりくたびれてきているけど、これまでいろいろな島をこのK1で旅してきて信頼している。大海原に浮かんだら一心同体、まさに命を預ける唯一の相棒だ。朝の6時から急いで組み立てを初めて、なんとか8時前に出艇することが出来た。飛島はキャンプ禁止の島だけれど、いざというときのために、はたまた気が変わって陸沿いに男鹿半島を目指す旅に変更したとしてもいいように、キャンプ道具や2~3日分の水・食料も積んだ。

今日は飛島がはっきり見える。漕ぎ出した象潟の海は穏やかである。これから潮流や風の影響がどうなっていくか不安である。GPSで計った直線距離はぴったり30km。時速5~6kmで漕ぎ続ければ5~6時間でゴールできるはずである。沖合10kmくらいまで漕いだら、最終的に行くか戻るか判断しようと決める。そこで気象条件的に難しくないか、体力的に余裕があるかなどをチェックする必要がある。

シーカヤッキングの旅は、海を歩くようなものである。陸沿いを漕ぐときは少しずつでも景色が変わっていくけれど、島渡りでは1時間も漕いでようやく陸が小さくなったとか大きくなったとかわかるくらいだ。今日は視界がよいので、目標物をひたすら目指して漕ぎ続ける。ナビゲーションは楽である。デッキコンパスはほぼ西。GPSもちゃんとほぼ西を指している。もし視界がなかったら、デッキコンパスとGPSが強い味方となる。途中海上ですれ違った漁師さんのアドバイスでは、潮流は右から左に流れているという。どれくらいの強い流れかわからないので、気持ち右向きに進路を向ける。あとからGPSの軌跡を確かめてみると、なるほど前半部分で少し南に流されて、後半部分で意識的に修正していたことがわかった。

長距離のパドリングでは10kmをひと区切りとして漕ぐ。シーカヤックで10kmという距離感覚は、ロードバイクだと50kmだろうか。山スキーのシール登行だと、標高差300mの膝下ラッセル? いずれにせよ最初の10kmの距離感覚で飛嶋横断30kmの感覚をつかみたい。しかしパドリングは単調なものである。GPSの表示を観察していると、だいたい5~6回のパドリングで10mすすむ。計算すると50~60回で100m、500~600回で1kmである。30kmなら15000回から18000回のパドリングが必要というわけだ。だけど、パドリングの回数なんてすぐに飽きてしまって数えてられない。パドリングは力をうまく抜いて合理的に漕いでいると思っていても、疲労度に合わせてフォームが自然に変わってくる。パドリングに疲れてくると、パドルの引きよりも押しに頼りがちになってくる。これまで1日50km以上の距離は何度も漕いでいるので、今回の30kmに不安はないけれど、とにかくこの自分の腕だけが頼りである。

10km地点で気象条件に大きな変化もなく、体力的にも問題がないのでそのまま漕ぎ続ける。半分を過ぎた頃だろうか、右手彼方に白い小さな船影。新潟~北海道航路の大型フェリーである。この大海原で衝突する確率はかなり低いはずだけれど、それぞれの航路の対角線上で交わりそうな気がするから不思議だ。だんだん近付くにつれ、相手はなんといっても高速で航行しているのだから、みるみる彼方の前方を右から左へと通り過ぎていった。一応こちらも船舶には違いないので、相手の航行の邪魔にならないようマナー意識はある。もちろん大きな船優先である。といっても、こちらは豆粒の大きさだから気付いてもらっているのだろうか。

恵まれた気象条件の航海であった。振り返ると鳥海山が雲に隠されていたけれど、どっしりとあった。パドリング中は一度も振り返る余裕がなかった。ところで島に上陸後、すぐ一仕事しなくてはいけない。今宵の宿を見つけなければ。お盆休みなので簡単には見つけられない。しかし駆け込んだとある旅館のおかみさんは親切で、となりの民宿を気持ちよく紹介してくれた。

飛島まで距離30.6km。最高速7,7km。所要時間5時間50分。移動平均速度5,4km。途中パドルを休めて休憩したのは約9分。

2日目

飛島1周~秋田県象潟・象潟道の駅~象潟海水浴場

昨日は宿が決まった後にまたカヤックに乗り込み、島の無人の浜まで漕いでシュノーケリングをして遊んできた。対馬海流にさらされているからだろう、透明度が高い。それに、メジナや黒鯛の大きなのが泳いでいたりする。宿の夕食は海の幸三昧。たらふく飲んで食べて、潮風が気持ちいい2階の大きな座敷ですぐにゴロンである。持参した新田次郎の剣岳点の記は数ページもめくる力もなく尽きた・・・

宿のおかみさんは気を利かせてくれて、朝食の用意を6時半にしてくれた。おかげで7時過ぎには出航できた。島を時計回りに1周してから横断することにする。

昨日と違って今日はやや風が強い。うねりが少しある。向かい風になるので島の裏側に回るのは少し辛い。飛島は、島の裏側に南の海のリーフのような浅瀬が広がっている。大回りをしようとしたつもりがこの浅瀬に迷い込んでしまい、途中でカヤックを降りて引っ張らなくてはならなかった。そんなこんなで時間を食ってしまい、もう一度ゆっくりシュノーケリングをしたいと考えていたけれど、そのまま横断することにした。

しかし、今日は天気がいまいちで、一番の目標になるはずの鳥海山は雲の中である。昨日の好条件と違い、完全にデッキコンパスとGPSによるナビゲーション航海となった。ほぼ東に進路を合わせて漕ぐ。30kmのパドリングの距離感覚はしっかり体が覚えている。突然海が荒れ始めたとしたときの最適な状況判断を冷静に想定しながら漕ぐ。

パドリング中に目を楽しませてくれたのは海鳥達がカヤックのまわりを飛び回ってくれたこと。小さなトビウオが海面を跳ねたこと。象潟の港に近付いた頃、漁船が進路上の前方にいた小さなカヤックの進路上を追い抜いていく時に、優しく減速してくれたこと。心が和んだ。

黙々と一人漕ぎ通した。ただそれだけなのに、なんという充実感。2009の夏の海旅は、いつもとひと味違う海旅だった、

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