上ノ国町汐吹~松前町折戸海岸(漕行距離約39km)

いよいよ4日目。今日も暗いうちに起き出す。海岸では、現役を引退した老漁師が、流木拾いをしていた。5時半過ぎには海に浮かぶ。

この辺りの海岸線は、それほど高くはないけれど切り立った断崖が延々と続く。道路は断崖の上に押しやられ、海上からはほとんど見えなくなる。カヤッキングのコースとしては、なかなか良いロケーションだ。道路からは簡単には降りて来れないプライベートビーチも、いたるところにある。途中でシュノーケリングする。本当に透き通った綺麗な海だ。

相変わらず視界は悪いが、前方に大小2つの三角錐の孤島がぼんやり見えだした。松前小島と大ヒヤク島である。松前小島は、面積1km2、周囲4kmの、無人の火山島である。小さな島なのに、そのてっぺんは262mもある。不思議な存在感を漂わせていた。

松前町では、熊騒動が起こっていた。子連れのヒグマが町中で目撃されたようで、パトカーが大きなアナウンスを流して注意を呼びかけていた。折戸海岸はキャンプのできる海水浴場になっていて、テントがいくつも張られていた。パトカーがややトーンを下げて、「キャンプは撤収しましょう。」と最後にひとこと言い残して走り去った。なんとなくユーモラスな光景だった。もちろんテントを撤収した人は誰もいなかった。

午後をまわると、天気が良くなり出した。きらきらと輝く海を眺めながら海岸でボーッとする。カヤックの荷室にビールが転がっていたのを思い出し、栓を開ける。今日はここまでだ。ビールは、冷えていなくても不思議とうまい。心地よい潮風を浴び、かすかな波の音を聞きながら、小石の浜に寝っ転がる。こんな怠惰な旅こそ、贅沢な旅かもしれない。
