トレッキング

白砂山の夏2025

朝霧に濡れる稜線は、露でお花畑がいっそう輝やきを増して、特別に美しいと感じる時間です。マルバダケブキやハクサンフウロ、ハコネギク、ホツツジ、ハクサンオミナエシ、リンドウ、エゾシオガマ、タテヤマウツボグサ、ホソバコゴメグサ、キオン、アキノキリンソウ、コメツツジ、コイチヨウラン、ミヤマコウゾリナ、イタドリ、オトギリソウ、ジョウシュウオニアザミなどが咲き誇っていました。 日が高くなり霧が晴れてくると、たくさんの蝶が舞い始めました。盛んに花の蜜を求める蝶たちのなぜか愛らしい姿は、稜線に花が咲き乱れるこの時期だからこその情景です。クジャクチョウやベニヒカゲ、キアゲハたちが競うように蜜のある花を選んでいるようでした。 そして野反湖のヨツバヒヨドリには昨年あたりからさっぱり飛んでこなくなったアサギマダラも、ここではいくつも気持ちよさそうに稜線の風の中で舞っていました。 日の当たらない特別な場所にひっそりと咲くコイチヨウランは、花好きであればきっと見つけられて幸せな気分にさせてくれることでしょう。 秋を感じさせてくれる熟し始めた実もありました。ゴゼンタチバナ、マイズルソウ、オオカメノキ、ツバメオモト、ミツバオウレン、スノキ、コケモモ、クロマメノキなどです。 山の日3連休は初日だけが登山日和で、最終日の山の日もあいにくの雨でした。これからお盆にかけて晴れの日が続きそうなので、今日は平日に関わらず白砂山山頂は登山者で賑わったようです。 そして、大きなザックを背覆った登山者はぐんま稜線トレイルの縦走登山者だと一目でわかります。今回は白砂山稜線上で、平標山から鳥居峠に向かう縦走登山者と志賀高原から三国峠に向かう縦走登山者の二人の方と出逢えました。 アキアカネが乱舞する白砂山山頂では、夏山らしいのどかな時間が流れていました・・・

噴火警戒情報レベルアップ前日の芳ヶ平湿原

8月3日に町主催の芳ヶ平湿地群自然観察会が開催され、盛夏の芳ヶ平湿原を訪れることが出来ました。心配していた天気ですが、この時期としてはまずまずの夏空の下で雷雨の心配もなくラムサール湿地の大自然を満喫しました。前回訪れたのは7月11日だったので、湿原の景色もずいぶん変わっていました。 花や木々の自然が移ろいゆく姿を見ながら、季節の進み具合をしみじみと実感しながら歩くことができました。 標高2152mの塔の池ではモリアオガエルのオタマジャクシが浅瀬で日向ぼっこしている姿を観察しました。秋がやってくるのはもうすぐです。いったいどれだけのオタマジャクシがカエルになれるのでしょう?越冬して来年カエルになる個体もいるかもしれません。 渋峠からダマシ平を経て湿原が見下ろせる場所を歩くころから、不気味な轟音が聴こえてきました。風向きの影響でいつもより大きな音で聞こえるなと思っていましたが、それが翌日の噴火警戒情報1から2へのレベルアップと関係しているとは夢にも思わなかったです。 芳ヶ平湿原はまさに夏色に輝いていました。ワタスゲはまだ少し綿毛を残しているものもあって、7月の頃の面影も感じられました。 木道沿いに繁茂するヨシは、7月7日の時には目立たなかったのに、今はもう中学生くらいに成長していました。ヨシが朝露に濡れていると全身びっしょりになってしまうのですが、今日はカラッとした夏空のおかげで乾いていて快適に歩けました。 新しい噴火情報を知ったのは翌日8月4日の朝ですが、午前5時に正式に発令されたようです。しばらくの間火山活動が静穏な状態が続いていましたが、これでまた志賀草津道路が通行止めになります。気軽に渋峠まで行けないので困ったものです。 ただし、渋峠から芳ヶ平湿原の往復やチャツボミゴケ公園から芳ヶ平湿原を往復するコースの登山道は規制の範囲外なので、これから秋色に染まる芳ヶ平湿原に訪れることはできます。芳ヶ平湿原は湯釜火口に近いので、訪れた際には突然の小噴火に注意が必要です。

野反湖・八間山トレッキングガイド偵察2025-7-28

猛暑続きの7月、8月は早朝登山がお薦めです。ふだん見せてくれない美しい風景との出逢いに恵まれることが多いです。2年前は、野反湖のエビ湾に移流霧が観察できました。 湖面から発生した霧が、まるで山から流れ落ちてくるようなファンタジックな光景で驚かせてくれました。 たっぷりと朝露を纏った高山植物の花々も、日中厳しい陽射しを浴びている時の姿とは違う表情です。 今日もまたたくさんの陽光を浴びて、もっともっときれいに花を咲かせるんだというエネルギーが伝わってくるようです。 イカ岩の頭から山頂へと続く笹原の中の登山道が、綺麗に刈られて整備されていました。登りも楽しそうです。冬は絶好のスキーゲレンデになる斜面です。 ハチたちも花の蜜を吸いに活動が始まっていました。今日は午後になっても雷雨の予報はないので、安心して白砂山へ登って来られるでしょう。 八間山頂はまだ誰もいない静けさに包まれていました。そして山頂の先に目を移すと、朝日を浴びた白砂山稜線が綺麗に眺められました。 黒渋の頭へと続く登山道の笹も綺麗に刈りはらわれて、山並みに気持ちよさそうな線を描いていました・・・

2025ラムお散歩ツアー&ノゾリチャツツアー

ラムお散歩ツアーの記念すべき第1回は、確か2016年5月12日でした。地元中之条町の若者男女グループ5人組に楽しんでもらいました。この年、チャツボミゴケ公園スノーシューハイキングも2月11日からスタートしています。どちらも気が付いたら今年9年目です。 そしてノゾリチャツツアーは、2018年から活発化し始めた草津白根山の火山活動の影響でラムお散歩ツアーが催行できないことがあり、2018年からスタートした姉妹版ツアーです。とはいえその前身は、2017年に10回ほど開催した厳選いい宿ツアーからの流れもあります。道の駅六合にある宿花豆にお泊りのお客さんを早朝の野反湖へ案内するツアーでした。懐かしい。 ラムお散歩ツアーのお蕎麦ランチは、草津温泉 「そば処風」さんです。生わさびとともにいただく蕎麦の香ばしい味が絶妙です。 ノゾリチャツツアーのお蕎麦ランチは、中之条町入山のそば処「六合 野のや」さんです。マイタケを中心にした季節のキノコとともにいただけるオリジナルメニューが他では決して味わえない絶品です。 お蕎麦ランチでお腹いっぱい大満足の午後は、どちらもチャツボミゴケ公園でツアーに向かいます。ガイドは毎日のように穴地獄のチャツボミゴケを観察することがありますが、毎回違った表情を見せて楽しませてくれます。ちょっとした変化もあれば、びっくりするような大変化もあって、その年の気候の影響やその日までの天候の様子、そしてその日の天気によって、チャツボミゴケの印象は変幻自在に変わります。 初めてチャツボミゴケを楽しむ秘訣は、偏った先入観をもたないでチャツボミゴケに出会うこと。毎回小さな気付きや発見の驚きがあります。お客さんには違う季節にもまた来てみたいと思ってもらえるようにガイドしています。 隣の池では、モリアオガエルのオタマジャクシもすくすくと育っているようです。これから一体どれだけの数がカエルになって森の中へと旅立っていけるのでしょうか。 標高1250mしかない穴地獄で見られる高山植物のアカモノとシロモノの熟した実。穴地獄特有の環境だからでしょう。これも草津白根山の火山の影響を受けた貴重な生態ともいえるでしょう。 いよいよ明日から8月です。2025シーズンのラム&ノゾリチャツツアーは、それぞれ10月と11月初め頃までの開催です。盛夏から紅葉の秋へと移ろいゆく中之条町・六合の大自然の魅力を楽しんでもらえます。また秋になると、新蕎麦も味わうことが出来ます。

令和7年度第1回登山道整備WG現地下見参加

谷川岳インフォメーションセンターは、雲が厚く小雨。今日の主催者や講師の方、参加者とともに谷川岳ヨッホ(ロープウェイ)乗り場まで徒歩。雨ということで他の登山客や観光客はほぼ皆無です。ロープーウェイに乗るのは、2015年以来だから10年ぶり? その時の登山道の様子はほとんど記憶にないです。ただ谷川岳山頂から一の倉岳へと続く稜線は、蛇紋岩質の岩稜で滑りやすかったことは覚えています。 午前9時半、濃い霧とときおり激しくなる風雨の中を熊穴沢避難小屋まで歩きました。そして、登山道の荒廃の様子を診断しながら、最適な補修方法の知見を講師から説明を受けました。 登山道整備は,、整備箇所の地形や植生などの様子をしっかり見定め、荒廃した原因を適切に診断することが最初の一歩です。雨水による浸食や登山者の踏圧による被害、その他にも積雪による木道の崩壊などです。またそれらに付随して起こる登山者の新たな踏み荒らしは貴重な植生の裸地化を広げます。そんな中で雨水の流れが登山道を荒廃させる一番大きな原因であることから、簡単にできる水抜き作業の実演は、参加者にとってとても参考になったのではないかと思います。 熊穴沢避難小屋に11時半到着。小屋内で昼食をとって12:00下山開始。次回9月に開催予定のワークショップでは、数ヵ所をピックアップして実際に登山道整備を体験する計画だそうです。 晴れていれば谷川岳の雄大な景色が楽しめたのでしょうが、今回は、雨の日だったからこそ登山道を流れる雨水を実地検分出来ました。とても有意義な現地下見になったと思います。

群馬県境稜線トレイルCエリア野反湖~三坂峠縦走2025-7-7

まもなく関東地方の梅雨明けが宣言されるとの予報でしたが、台風の影響なのか先延ばしされました。台風による湿った風の影響で午後から雷雨予報ですが、そんな空模様を心配しつつ群馬県境稜線トレイルのCエリアを歩いてきました。 堂岩山から楽しみにしていた白砂山へと続く稜線は視界不良。いよいよ濡れ覚悟で高山植物の宝庫である貴重な植生の這松帯に入ります。朝露に濡れた葉の陰にひっそりと咲くクロマメノキの花に癒されます。 ミヤマシグレはまだかわいい蕾です。 コメツツジの花は見頃の時期が短いので出逢えない年もありますが、今年はなんとか間に合いました。 コバイケイソウが当たり年のようです。堂岩分岐からセバトノ頭の先の笹平まで、笹原の斜面にはずっと咲き誇っていました。 上の間山までずっとガスの中でしたが、赤沢山付近で急にガスが切れだして青空も見えだしました。忠次郎山へのきつい登りでは、汗が噴き出て喘ぎ喘ぎなんとか山頂へ。ここからもまだまだ上り下りはありますが、視界が開けると気分も上がります。 上の倉山から大黒の頭、ムジナ平避難小屋まで白砂川源流の大パノラマに感動しながらの稜線漫歩でした。 オガラバナの花もずっといろいろなところで目を楽しませてくれました。薄緑の透き通るような葉と塔花が初夏の風に吹かれている様子がなんとも美しい木です。 ムジナ平避難小屋で一休みして水場の点検。どちらも異常なしです。登山道上の笹薮の伸び具合ですが、笹平のように笹が特別早く伸び始める場所は例外として、まだそれほどでもなかったです。 クマの新しい痕跡や気配も今回はまったくなし。心配していた三坂峠から旧三国スキー場までの下山道も、最近草刈整備が行われていました。稲包山方面も綺麗に整備されていて歩きやすそうでした。

野反湖畔一周トレッキングガイド2025-6-30

6月最後の日は野反湖一周トレッキングガイドでした。晴天に恵まれ、ちょうどノゾリキスゲも咲き始めて、ゲストの皆さんにもゆっくりと楽しんでもらいました。 午前中は野反峠から野反湖キャンプ場のビジターセンターまで西岸遊歩道を歩きました。どじょう小屋沢辺りまでは岳樺のメルヘンチックな森を歩きます。森を抜けると湖の風景が広がります。そして押出しの岬を周りエビ平へ。ここにはベンチがあるので大休止。今年はコバイケイソウが当たり年のようで、エビ平では華やかな姿で私たちを迎えてくれました。 今日は少し乾き気味のさわやかな北風が吹いてくれるので、快適に歩けました。蛇帝ヶ原から白樺渕を過ぎてテンバのお花畑まで来れば野反湖キャンプ場のビジターセンターまでもう一息です。ここでゆっくりお弁当休憩としました。午後はここからロックフィルの野反ダム堰堤を歩いて白砂山登山口からバス移動で大空堀駐車場へ。野反湖は近年にない満水状態で、ダム湖ではない天然湖のような風景で楽しませてくれました。 大空堀の駐車場から東岸遊歩道を歩いて池平へ。先週のレンゲツツジが満開の見頃だったことがまるで夢だったように、すっかりノゾリキスゲと入れ替わっていることにびっくりでした。富士見下で湖畔に降りてみました。水辺の片隅にモウセンゴケの一群が見られました。 一周ゴール後、コマクサのガレ場にもプチガイド。ここからの野反湖の景色も素晴らしいです。

芳ヶ平湿地群ガイド研修会2025-6-26

ここ数日は雨マークの日が続いたのと、昨夜半は大雨だったようで、渋峠からの登山道を歩くのに長靴が大活躍しました。大きな水溜りと沢下りの連続がダマシ平まで続くので、長靴なら水溜まりの深さも気にせずバシャバシャ歩けました。ただ滑りやすい岩もゴロゴロしているので、転倒注意です。ダマシ平手前に今も置かれている江戸時代の古い石碑は、当時の道普請の記念碑だと思われますが、この登山道がいかに長い年月をかけてたくさんの人が歩いて来たかということを伝えてくれているようです。 午後からの雷雨予報が気になりますが、午前中は穏やかな天気に恵まれました。ただ知らぬが仏で、この時間帯に草津白根山の火山性地震が活発になっていたとのことです。私たちは次々と咲き誇る高山植物の花々に心奪われながら歩いていました。 オオシラビソやコメツガ、トウヒの森の小道には、モミジカラマツやツマトリソウ、ミツバオウレン、マイズルソウ、イワカガミ、ゴゼンタチバナ、イワナシ、クロウスゴ、コヨウラクツツジ、ツガザクラなどたくさんの花々が見られました。いよいよ芳ヶ平湿原に降り立つと視界が一気に開けて心が躍ります。ワタスゲの白い穂が緑の湿原に点々と散りばめられた様子が鮮やかに目に映りました。今度中学生を連れてガイドする下見を兼ねての研修会だったのですが、このような景色が楽しめることが出来るような天気になってほしいと思います。 湿原ではヒオウギアヤメやツルコケモモの花が咲き始めていました。モウセンゴケも蕾が見られるものもありました。野営場でお昼ごはんをゆっくり食べてから大平湿原へとオムスビ山を下ります。 少し笹薮が伸び始めていましたが、大平湿原を眼下に眺めての雄大な景色が開けて気持ちいいです。コメツガの森の林床にはギンリョウソウが咲き始めていました。 大平湿原まで下りた頃に雨粒がぽつりぽつりと落ちてきました。何度か遠雷も響いてきました。四つ角から池巡りをせずまっすぐ穴地獄へ下る道を選びます。結局本降りにはならず、穴地獄ではモリアオガエルの卵塊やチャツボミゴケの群生をゆっくり観察する余裕もあり、充実した研修会の一日でした。

野反湖から秋山郷へ1999年秋

「信州の秋山郷からこの地蔵峠を越えて上州の入山郷へ抜ける山道は俗にこれを牛道と称し、かつては越後から入山へ米を運搬するために牛を通したことのあるだけに、道幅も広く相当の往来もあったが、近年は碌々手入れもしないために熊笹の跳梁するところとなり、山慣れた人でなければ通過もなかなか容易ならぬ状態である。」(上信境の山々・中村謙著 地蔵峠越えより 昭和12年) おそらく昭和10年頃には、かつて盛んに使われていた道もかなり寂れていたようである。この道がもっとも繁栄を極めたのはいつ頃なんだろう。激動の明治維新の時代、幕臣小栗上野之介の夫人が政府から逃れるため、この道を通って越後へ逃げたという歴史がある。当時は、この道を「謙信越え」とか「越後新道」などと呼んだようである。「当時ようやく牛の通る程度(馬には通れぬ)に開かれたばかりで、・・・」とあるので、秋山への道が賑やかだったのは、それ以後の明治初めから昭和の初め頃までの期間だったに違いない。こんな山道を米を運ぶ牛が歩いたらしい。もっと時代をさかのぼって、鈴木牧之の秋山紀行では、「野反道」と出てくる。それからさらに、これより20年前、佐久間象山が鉱物探査のためにこの道を歩いている。1828年のことだ。どうやら昔からこの道は細々とあった。秋田マタギが狩猟をしたり、入山の木地師が木を探したりするために歩かれたんだろう。 野反湖を7時半に出発。日本海側は荒れ模様の天気ということで、風が強く寒い。こんな天気でも、白砂山へ登る人は結構いるもんだ。すでに登山口に二台、そして私たちと相前後して出発するペアが二組。しかし、秋山へは私たち4名だけのようだった。登山口からちょっと自転車を押し上げると、ハンノキ沢まで自転車に乗って下ることができる。しかし、体がまだ鈍っていて自転車のバランスがうまくとれない。冷や冷やしながら下る。ハンノキ沢から地蔵峠までは、担ぎである。フレームの三角に頭をつっこんでゆっくり坂道を登る。今年は紅葉が良くないようだが、野反湖の紅葉はそれでも今が盛りのようで、霧のベールから浮き上がるように樺の白い幹と黄色い葉が山肌を彩っている。強い風が吹くと、木々の露が雨のように散り、体を濡らす。いつもならこのつらい上りは汗で濡れるはずだが、今日は背中がほんの少し汗ばむくらいだった。8時半頃、地蔵峠に着く。 ここには小さな地蔵が安置されていて、言い伝えの記録がある。このお地蔵さんは、長野原の人が岩菅山へあげるためここまで背負いあげたのであるが、不思議なことにこの峠から先に進むと足が痛み出し、退くと即座に直るのでそのままここに置かれたという。背負いあげたとあるので、小さな地蔵といえども人力でここまで来たんだから大したもんである。穿った見方をすると背負ってきた人夫がもういやになってそんな話を作ったのかもしれないけれど、このお地蔵さんはこの場所がふさわしいと思う。かなり風化しているけど、赤い毛糸の上着や登山者のチョッキを着せてもらって、みんなから愛されているようだ。白砂に登るにしても秋山に抜けるにしても、なんだか御利益があるような気がするお地蔵さんだ。地蔵峠から北沢への道は、急な斜面を斜めに横切るように緩やかにつけられていて、つらい担ぎから解放される。この斜面は、残雪期の頃だと根曲がり竹も埋まりスキーでの滑降も結構楽しい。ただし帰りの登り返しはきつい。北沢は小さな沢。石伝いに渡って、ここで一休みする。最後に渡った家内は、石に足を滑らせ水の中にこける。この夏クワウンナイ川の沢登りでも滑床に足を滑らせてこけていたが、まったく危なっかしい。 さてここからつづら折りのつらい登りだ。身の丈以上ある根曲り竹が繁茂し、地形がさっぱりわからないほどだ。春、つづら折りを登りあげたこのあたりは雪原になっていてとても気持ちよいところなんだけど、春を知らない人には決して想像できないだろう。以前ベースキャンプを張って、存分にスキーを楽しんことがある。大倉山の南斜面はスキー向きのなかなかいい斜面だし、私たちは趣向を凝らして千沢へ滑り込んでみたり、大倉山の北西斜面をイタドリ沢めがけて滑ったりした。ほとんど水も涸れている荒戸沢を過ぎると、大倉山の西斜面をへつるように付けられた道になる。昔から左京横手と呼ばれているところだ。今日はガスで見えないが、晴れていれば時々野反湖を振り返ることができる。また、轟々と深い谷間を流れる千沢の滝を垣間見ることもできる。これもこんなに風がうるさい今日のような日では、滝の音も聞こえてこない。今日の私たちは、のんびりと話しなどしながら歩くだけだ。時々倒木が行く手を遮る。牛はどうやって通すだろう? イタドリ沢も何気なく通過してしまい、あとは西大倉山への登りだけだ。このあたりも春ならば雪原になっていて、テント張って2~3日のんびりしたいなと思うようなところである。しかし、今は根曲り竹が繁茂し、とてもそんなところだなんて想像もできない。西大倉山からは、待望の大倉坂のダウンヒルだ。大倉坂はダイグラと読む。曲折が多く、現在の地図では百八十曲りと書かれているが、古い文献寄れば百九十三曲りあると書かれている。タイトターンが好きなマウンテンバイカーにとっては、最高の道だ。おもしろいことにここからは、ブナを中心とした広葉樹の森になるが、あれだけ繁茂していた根曲り竹が少ない。ふかふかの落ち葉に敷き詰められたブナ林の中を、心まかせに自転車で下るこの楽しさは、なんと表現したらいいんだろう。九十九曲り目にツキガネ段という名所があるそうだ。撞鐘によく似た石があるというのだが、昔はここから渋沢へ下るルートがあったそうだ。 12時、奥州平と呼ばれる渋沢出合いに降りる。奥州平とはよく言ったもので、おそらくこのあたりで活躍した秋田マタギが由縁の名前だろう。鬱蒼としたブナなどの巨木の森で、森の臭いがぷんぷんする。昔入山の人が使っていた小屋が朽ちた姿でまだ残っている。屋根はしっかりしているので、泊ろうと思えば泊れるが、私にはその勇気はない。渋沢にかかる立派な吊り橋を渡ると、渋沢ダムがある。珍しくダムで何か作業をしている人が数人いた。風が強くあまりにも寒いので、避難小屋に入ることにする。 このバラックもかなり古くなっていて、隙間風がビュンビュン吹き、寒い。そんな小屋だが、シーズンにはかなりの釣り人が利用しているようだ。ノートには、釣り人の様々な想いが書き綴られていて、結構おもしろい。私もつまらないことを書き込んで、12時45分出発することにする。さてここからは、水平歩道を行く。渋沢ダムができる前はもちろん無かったので、右岸に道が付けられていた。しかし今はもう無いと思う。その痕跡を訪ねてみたいと思うが、ちょっとそれだけの気力はない。昔の文献からその様子を伺い知るしかないだろう。 「(奥州平の)営林署の小屋からは、ほとんど眺望のない、尾根がらみの道を、あるいは小尾根に登ったり、あるいは小沢に降りたりして四キロばかり進むと佐武流川のほとりに出る。これより約一キロ半登った三角点の1,631メートルの尾根上に1里地蔵とて高さ二尺ほどの石地蔵尊がある。ここまで達すると、まもなくして九十九曲りと呼ばるる急峻な坂道の下りにかかる。檜俣川を飛び石伝いに渡り、対岸に林道を求めてブナや川胡桃の林を穿行するうちに、いつしかエラ寝平とてエラの木の多い平に出て、まもなく佐武流山からの林道に合する。ここからドロ平を経て深沢の上流を渡れば和山はもう間近である。」 また、鈴木牧之の秋山紀行には、秋田マタギがこの奥州平から魚野川をさかのぼって、燕滝から小ゼン沢をさかのぼり草津へイワナや獣の肉、毛皮などを売りに行ったことが書いてある。まったく秋田マタギというのは凄い山の生活技術をもっていたんだなと感心する。またそのころ主に猟師や木地師を生業にしていたらしい入山の人の生活や方言なども紹介されているのが興味深い。 水平歩道は、昔の苦労などまったく感じさせないほどに、快適である。ただ魚野川の断崖の中腹に付けられているので、時々眼下に魚野川が切れ落ちていて、怖い。小さな沢を跨ぐとき、イワナが五~六匹走った。仲間と騒ぐ。どうやら今年の紅葉はここでも今ひとつだが、それでも見とれるほどのいい景色だ。二つ目のトンネルはやっぱり通行禁止だった。入り口に鍵がかかっていて、山越えの道がある。初めて来たときはまだ通れたのにな。どうも崩壊の危険があるようだ。ここを過ぎれば、また快適な道が続く。短いトンネルを二つくぐって少し進むと、ようやく水平歩道も終わり、魚野川に向かっての急斜面をつづら折りに下る。ここもなかなか手強いが、結構乗車できる。マウンテンバイカーにとっては、最後のハイライトだ。つづら折りを下りきり、高橋吊り橋を渡ると車も通れる林道に出る。切明までもうすぐだ。魚野川水平歩道はきわめて快適。

志賀高原・四十八池トレッキングガイド2025-6-19

まだところどころ雪渓が残る志賀草津道路の峠道を越えて志賀高原へ。途中の草津温泉が見下ろせる展望台でぐんまちゃんに出逢えました。標高2172m芳ヶ平湿地群展望台付近の気温は19度で、おそらく今日の下界の猛暑からは想像できないような涼しい風が吹いてました。 片道600円の前山リフトで前山湿原へ。ワタスゲの大群落に迎えられました。 これからまだまだ綿毛が成長していきそうです。7月頃になれば、晴れた日の風の強い日にいっせいに綿毛が飛んでいくことでしょう。 渋池ではモリアオガエルの鳴き声がたくさん聴かれ、卵塊も岸辺の草むらにたくさん産み付けられているのがわかりました。いよいよ森の木陰の道が四十八池へと続きます。すると急にブヨかと思われる虫がまとわりついてきました。嚙まれはしませんでしたが、結局この後前山湿原に戻るまでずっと鬱陶しい思いをさせられました。これからますます生き物たちが活動的になる季節なんでしょうが、ブヨやアブやハチは困りものです。はやくアキアカネの群れが高い山目指して飛んでくるのが待ち遠しいです。 そんな森の中でも自然観察は興味深いものとの出逢いがたくさんありました。この冬の大雪のせいでしょうか、いつもよりたくさんの木が倒れていました。根こそぎ転がっているものから、太い幹を真っ二つにして倒していたり、かろうじて倒れていませんが斜めに傾けられていたりです。森が生きていることを教えてくれます。 四十八池ではまだミズバショウが見られました。他にはヒメシャクナゲやイワカガミなども見頃でした。 東屋で少し遅めのお昼休憩にしました。森の小道では、オオカメノキやムラサキヤシオツツジ、コミヤマカタバミ、ツバメオモトの花が楽しめました。